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井戸端会議

「これ金平牛蒡(きんぴらごぼう)です」 「悪いね。嬉しいよ。りゅうちゃんの料理、おいしいからね。こっちは肉じゃが」  隆司(りゅうじ)と栗原は互いに持ってきたタッパを交換した。 「出来合いのもの買ってもいいけど、やっぱり味がねぇ。少量作ろうとしても多くなっちまうし、旦那と二人だけだと食べきれないしね。助かるよ」 「こちらこそです」 「りゅうちゃん、食べ盛りだろう?」 「約一名、一人前食べるかどうかの怪しい人が居るので」  隆司は運ばれてきたコーヒーを啜った。  その向かいでは栗原がショートケーキにフォークを入れる。 「ああ、かずちゃんね。でも、去年より食べるようになっただろう? この前会ったとき顔色は良さそうだったけど」 「そう、ですね。元々があまり食べる人ではないので」 「まあ、去年はチームリーダーだったし気を揉むこともあっただろうよ」 「チームリーダー?」   何の話だ。隆司は眉を顰めた。 「あれ? 聞いてないかい? 病棟の中でチーム三つに分けて六十人弱の患者を看てるわけだよ。その内の一つのチームのリーダーだったのさ。色々と面倒くさいもんだよ」 「あの人にできる物なんですか?」  栗原は意外そうに目を見開いて、その後納得したように浅く何度か頷いた。 「かずちゃんは普段はそうじゃないけど、仕事モードになるとそれなりにやるよ。プライベートではぽやっとしてるけどね」  確かあの子、看護師の資格のほかに認定看護師も持ってるはずだよ、と栗原は続ける。  普段ぼーっとしている間抜けな姿しか知らない隆司には想像もつかないことである。  怪訝そうな顔をしている隆司を見上げて、栗原はくすっと笑む。 「それだけ、かずちゃんが心を許せるってことじゃないかい? りゅうちゃんとの空間が。末永くやりな」  そういって栗原は伝票を持って立ち上がる。  今日はおねーさんの奢りだと。  その背を見送って隆司は一人ごちる。 「……侮れない」  隆司からも一磨からもこの関係は伝えていないはずである。  彼女はどのように知ったのか?  そして、どうも、この、歳の差十歳、親子、男同士の三重苦の恋愛を応援してくれているようである。  何を言うわけでもなく、しゃしゃりで過ぎず。不思議な人ではあるが、自然と心が休まる。  隆司自身、一磨とのことは隠してはいないが、公にもしていない。  カテゴリーがマイナーの分類になることは解りきっている。  嫌悪感を抱く人間が少なくない事も知っている。  それをわざわざ表立たさなくてもよい。  背中に黄色い声を聞いて、隆司はカフェの扉を閉めた。

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