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第5話
「僕のこと好き?」唇を離して、だが、お互いの腰に手を回したまま、蓮が言った。
「好きだよ。大事な生徒だ。」
「そういうんじゃなくて!」
「大事な生徒だよ。」俺はそう繰り返し、蓮の肩に手を置いて、彼を遠ざけた。「だから、これきりな。分かるだろ?」
「好きなくせに。」
「好きだよ。」
「せ」まだ何か言いかけようとしていた蓮を無視して、職員室に戻った。蓮は仕方なく後を着いてくる。薄暗いはずの職員室は、もっと暗い所から戻ると眩しいほどだ。俺は後もう少し粘りたかった作業をやめて、帰り支度を始めた。
「帰るの?」
「ああ。」
「おにぎりは?」
「家で食べるよ。」
「帰れるの? 電車もうないよ。」
「カプセルホテルかどこかに行くから、心配すんな。おまえこそ、どうやって帰るんだ?」
「僕んちは、近いから。」
「そうだったな。」確か蓮の家は学校の裏手の方向だ。のんびり歩いても15分ほどで着けるだろう。
「うち来れば。」
「え? 馬鹿言うな、こんな夜中に生徒の家に行けるか。」
「誰もいないから。」
俺はコートを羽織る手を止めた。「お母さんはどうした? 旅行にでも行ってらっしゃるのか?」
「まあ、そんなところ。」
「夫婦で?」
「そう。」
「仲が良いんだな。良いことだ。」
蓮は曖昧に笑って、コートの袖口をつかんだ。「だから、来てよ。うち、近いけど、暗ーい道なんだよ、危険だよ? どうする、明日の朝刊に、男子高校生、謎の通り魔に惨殺なんて見出しが出たら。」
「趣味悪いことを言うな。」
「野上先生が好きって時点で、趣味は悪いよね。」
「ひどい言い草だな。……分かった、送ってやる。その代わり、帰りはチャリ貸せ。それ乗って駅のほうまで出るから。」
「ママチャリしかないよ。」
「良いよ、それで。」
俺と蓮は学校を出た。通用口の門は、オートロックだ。
「おまえ、どうやって中に入ったんだ?」俺は蓮に尋ねた。
「いろいろルートはあるんだよ。それは生徒のひ・み・つ。」
「俺の時にもあったな、そういうの。でも、校舎を建て替えたから、あの抜け道はもう使えないな。」並んで歩きながら、話す。「青山が入学した頃には、新校舎になってた?」
「うん。新校舎の一期生だって、入学式の時に校長先生が言ってた。」
「たった5年でも、変わっちゃうよなあ。」俺は独り言のように言った。
「先生と僕、5歳しか違わないんだ。」
「そういうこと。」
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