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第9話
青山蓮について、またその親について、他の生徒や保護者、またマスコミから何か聞かれても、何も答えるなと箝口令が敷かれた。最後に、教頭ははっきりと担任である俺と視線を合わせて「勝手な行動は慎むようにくれぐれもお願いします。該当の生徒とは個人的に連絡を取らずに、必ず校長か私を通してください。」と冷たく言い放った。
黙っていても近々蓮は退学になる。本校は事件とは関係なくなる。だから波風を立てずに黙っていろ。学校側のスタンスは、つまりはそういうことだった。
蓮はその日、当然欠席だった。俺はこっそり電話をした。緊急連絡先として登録されているのは母親と祖母。父親はない。予想はしていたが、どちらともつながらなかった。また、教頭が自宅を訪ねた時には既にもぬけの殻だったと言う。
そんな風に忽然と姿を消した蓮からハガキが届いたのは、数日後だ。
『驚かせてごめんなさい。母親の計画は知ってたけど、こんなに急だとは思ってなかったし、口止めもされていて話せませんでした。今いる場所も教えられません。でも、心配しないでください。いつか会いに行きます。その日まで待っていてください……って言いたいけど、待たなくていいです。幸せになってください。』
それを読んだ時、真っ先に思ったのは、借りた自転車はどうすればいいんだってことだった。そんなどうでもいいことしか思い浮かばないぐらい、動揺していた。
青山蓮はその月末に退学になった。卒業アルバムに載ることもなく、まるで初めからいなかったように、皆の記憶から抹消されていた。俺は、自分が担任した初めてのクラスの卒業式で、出席番号2番の生徒から名前を呼んだ。
あれから20年経ち、今年もまた人事異動の季節だ。今日は新しい教員が来る。
職員室の戸が開く。その顔の中に、懐かしい面影を見た。
「4月からお世話になります。緋山 蓮です。」
俺は慌てて周囲の教員を見た。20年の間に大分入れ替わり、あの時の校長も教頭ももういない。姓まで変わってしまった彼に気付いているのは俺だけのようだ。
その日の夜、俺は行きつけのバーに蓮を誘った。
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