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『いらっしゃいませ。』
『ありがとうございました!!』
いつものように目まぐるしく過ぎる一日。
バタバタとアシスタントが走り回る。
『うわっ!!!』
ドンッ!!という音が聞こえ、そちらに目を向けると尻餅をついているアシスタントと、その子の腕を引っ張って立たそうとする白石。
『白石さんすみません…』
どうも二人はぶつかったらしい。
『大丈夫大丈夫。』
そう言いながら笑う白石。
『でも、服が…』
そう言うアシスタントの顔は真っ青だ。
服?
そう思いながら白石の服を見ると、カラーリング剤がベットリとついていた。
あちゃー。ありゃ取れねぇな…そう思っていると、白石が少し洗ってきますと言ってロッカールームへと入って行った。
俺は客もはけ、ちょうど手も空いていたのでタオルでも持って行ってやるかと、タオル片手にロッカールームへと向かった。
『白石!!!タオル…』
そう言いかけ、俺は持っていたタオルを落とした。
ちょうど服を脱ごうと白石が胸のあたりまで服を捲り上げたところだった。
左胸には小さなホクロ…
『お前やっぱり!!!』
そう言いながら服を脱ぎ終えた白石の腕を掴む。
『平岡さん!?なんですか!?』
『お前やっぱり俺と会ったことあんじゃねぇか。陸。俺のこと忘れたのか!?』
『…は、はぁ!?何言ってるかわからないんですけど…』
『お前本気で言ってんのか?お前はちょっと雰囲気変わったかもしんねぇけど、俺はどこも変わってねぇだろ?』
『いや…だから知りませんって…』
『俺は昔、お前と同じ名前の白石陸ってやつと付き合ってたんだよ!!』
『同姓同名って可能性もあるし…』
『ソイツはな、左胸に小さなホクロがあって…』
そう言いながら白石の左胸のホクロをなぞる。
『ちょっ…』
『こうやって舌を這わせると可愛い声で鳴いて…』
そう言うと俺は白石の両手首を掴み壁に押さえ付けると、左胸のホクロに舌を這わせた。
『ちょっ…んっ…や…』
『俺はどうしてもソイツのことが忘れらんねぇんだよ…』
俺は白石を抱きしめた。
『なぁ…お前は俺のこと忘れちまったのか?陸…』
抱きしめているせいで顔は見えないが、抱きしめた俺の背中に震える手が回される。
が、それも途中で止まり、ドンッと胸を押された。
『ひ…人違いですって!!!』
そう言って汚れていないTシャツを着て慌てて出て行ってしまった。
『俺…何してんだろ…』
なんだか急に虚しくなり、少し時間を置いてからホールへと戻ったのだった。
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