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36 陸side

『陸!!こっちよ!!よかったわ、来てくれて。』 『約束したんだから来るよ…』 日曜日、仕事終わりに約束した店に来た。 縁談ということだが、そんなに固くならなくてもいいということで雰囲気もさほどきっちりしすぎていない店だった。 『初めまして…白石陸です。』 頭を下げると相手の女性も頭を下げてくれた。 『初めまして。青木 麗美(アオキ レミ)です。』 名前と雰囲気が本当によくあった女性で、とても美人だった。 父さんの上司の娘さんで、歳は俺と同じ。 ずっと女子校だったせいで、男性と話すのも苦手らしい。 でもなんとか俺と話そうと頑張ってくれているのが垣間見え、なんだか少し嬉しかった。 話も終わり店を出る。 互いに頭を下げて別れた。 『ねぇ、陸。あのお嬢さんどう?お母さんはすごく気に入ったんだけど。美人だし、清楚だし、あなたと一生懸命話をしようと頑張って…』 『うん…。』 『来週の日曜日までには返事したいからしっかり考えなさい。いい返事待ってるわ。』 そう言って母さんは帰って行った。 さほど遠くもないが、俺は実家を出て一人暮らしをしている。 トボトボと考えながら歩く。 『あっ…』 なんとなしに通った道。 たまたま先輩がマンションに入って行くのが見えた。 ここ、先輩の家なのかな? 確かに俺の家の近所だ。 そう思いながら歩いていると前から電話をしながら一人の女性が歩いてきた。 『あっ、啓太?うん。着いたけど。入口まで迎えに来て。』 羽野様だ… 先輩の彼女。 やっぱりまだ続いてたのか… 顔がバレないように俯きながらすれ違い、後ろを振り返る。 先輩が入口まで迎えに来て、二人で中へと入って行った。 なぜ俺はショックを受けているんだろうか… 先輩に彼女がいることは知っていたじゃないか。 勝手に別れてたらいいな…なんて想像してたからか…。 居ても立っても居られなくて走って帰り、嗚咽を漏らしながら泣いたのだった。

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