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『だからお前飲み過ぎだって。』 『…』 『酔い過ぎ。』 『酔ってませんよ…』 『嘘つけ。フラフラじゃねぇか。』 そう上手いこと言いながら白石の肩を抱く。 我ながら汚いと言うか… いや、こうでもしないと白石に触れられないだろう? 俺は、介抱のつもりでしてるんだ…と、自分に言い聞かせる。 『大丈夫ですって…自分で歩けますから。』 『いいから。』 ギュッと自分の方へ引き寄せると、俺の胸と白石の肩がぶつかった。 このドキドキ、バレてねぇかな… うるさいくらい鳴り響く自分の心臓に、落ち着けと心の中で言う。 『平岡さん…』 『ん?』 『楽しいですね…』 ボソリと呟いた白石の一言が俺の心を射抜く。 楽しい…か。 俺も楽しい。 お前と一緒にいると、楽しくて、幸せで… でももう手は届かない。 苦しくて、苦しくて… 『だな。』 その一言を返すのが精一杯だった。 『ありがとうございました。』 『こっちこそありがとう。また明日な。』 『はい。』 頭を下げると白石が部屋へと入って行く。 大人のくせに、やってることはガキと変わんねぇ。 いや、ガキ以下か… 好きな奴が目の前にいるのに、何もできなくて… 情けなすぎて笑ってしまった。

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