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ヘアショーを明日に控え、今日はモデルの女性との打ち合わせだ。
『いらっしゃいませ。お待ちしておりました。』
白石がモデルの女性を店内に招き入れ、一通り説明をする。
今日は練習もさせてもらう予定だったので、カット台に座ってもらい、クロスをかけた。
『私こういうの初めてなので…なんかドキドキしますね。』
『大丈夫です。僕たちが綺麗にしますから。』
そう言うとモデルの女性は安心したように鏡を見た。
メイクも込みなので、白石と手分けをしてヘアとメイクを仕上げて行く。
最初に決めた頭に付ける生花は今日は造花だ。
『こんな感じでどうですか?』
『あっ…いいんじゃね?ここもうちょっとこう…』
二人で話し合いながら進めて行く作業がとても楽しい。
モデルの女性には悪いが、白石と二人だけの空間のように思えた。
『ありがとうございました。では、明日よろしくお願いします。』
二人で深々と頭を下げ、モデルの女性を見送ると、撮った写真を見ながらもう一度話し合う。
近い…
さっき作業をしていた時はなんとも思っていなかったが、写真を見ている今、二人の距離がかなり近いことに気付いた。
一生懸命に話をする白石。
キスしてぇ…
俺、最悪。
後輩がこんなにも一生懸命仕事の話をしているというのに、俺の脳内は不埒なことで埋めつくされている。
ダメだ。
頭をフルフルと横に振りながら変な考えを吹き飛ばし、白石の話をしっかりと聞く。
『ここって…もっとこうした方がいいですかね?』
『そうだな。そうか、こうするか?』
お互いに意見を出し合い、気づけば日付を跨いでいた。
『うわ!!もう帰んねぇとやべぇな!!』
『そうですね!!』
慌てて仕度をして店を出た。
『もう少し明日のために話詰めたかったんですけどね…』
仕事熱心な白石がそう呟く。
『だったらさ…俺んち…来る?』
驚きの表情で固まる白石。
そりゃそうだ。
『ごめん…冗だ…』
『行きます…』
『えっ!?』
『行かせて下さい。明日優勝したいんで。』
自分で誘っときながらまさかの答えに戸惑いを隠せない俺。
だけどすごく嬉しくて…
あくまでも仕事だ…と自分に言い聞かせ、二人で家路についた。
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