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カットクロスをかけて、髪を全体的に水で濡らして行く。 鏡の中の白石はずっと俯いていて、表情がわからない。 『おい。顔上げろよ。髪切れねぇじゃん。』 『はい…』 ゆっくり顔を上げた白石の表情はどこか寂しそうで、今にも泣き出しそうだった。 『どうした?』 『いえ…なんでも…』 『そっか。』 襟足を揃え、全体的にバランスを見てすいていく。 パラパラと落ちて行く髪の毛を、鏡の中でひたすらと白石の目が追う。 俺とは目を合わせようとしない。 『前髪切るから…目、閉じて。』 白石の閉じられた瞳から伸びる睫毛がすごく長くて綺麗だった。 このままキスしてしまったら白石はどういう反応をするんだろうか… 自分の中の理性を保とうと必死に別のことを考える。 『いいよ。』 切り終わり声をかけると、そっと目を開けた白石と鏡の中で目が合った。 『触ってみて。だいぶ軽くなったろ?』 『あ…ほんとだ。』 自分の髪に何度も手ぐしを通しながら白石が言う。 『気に入った?』 『はい…。』 しばらく二人の間に沈黙が流れる。 先に口を開いたのは白石だった。 『平岡さん…俺ね、美容師になる夢諦めかけてたんですよ…』 『えっ?』 『でもね、転校してから一度だけ平岡さんの家を訪ねたらお母さんが話してくれて…』 『なにを?』 『平岡さんが美容師の専門学校に行ったって…』 『そんなの俺知らねぇ…』 『俺が来たことは黙っておいてくださいってお母さんにお願いしたんですよ。で、それ聞いて、俺も美容師になろうって。そしたらいつかまた平岡さんに会えるかもしれないって…そう思って…』 そう言う白石の目からは涙が溢れていた。 『白石…』 『先輩…俺、結婚したくない。』 『えっ?』 『俺、先輩が好きなんです!!ずっとずっと…あの頃からずっと…忘れられなかった…』 『陸…』 俺は名前を呼び、後ろから抱きしめた。

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