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第13話 星の寝所 -2-
俺は半分、瞳に涙を溜めながら解呪を試みた。
俺は一応、戦闘系の弓使いで、魔法は補助系が得意なのだ。
だから……解読に少し時間を要するかもしれないけど、もしかしたら解呪が出来るかもしれない……。希望的なものだが……。
そしてこの古代文字は多分、教会でも使われてる物と同じだと思われるから、そこから手繰り寄せれば……。
「……この時の為に、散々………………に頭を下げたんだよ、俺は!! この……聖槌を受けろ!」
『……!!?』
―ドゴン!!!
『ぐぁ……ぐ!?』
押し潰れた声に視線を向ければ……そこには、先程より更に巨大になった光球に脳天直撃されたセレニ・ダシュプールが……?
そして光球から閃光の帯が走り、バシバシとセレニ・ダシュプールの身体に追加攻撃を浴びせている。
「……………………は……ぁ!?」
ええ――!? 光球を振り下ろして……もしかして、それって……とりあえず……
物理攻撃!? ハンマーみたな……!?
うわ……。セレニ・ダシュプールの足元……ちょっと減り込んでる……。
『フ、ふザケヤガッて……!!!』
光球が消えたと同時に口の端から血を一筋垂らしながら、セレニ・ダシュプールは神父様に吼えた。口内が切れたんだな……。
しかし、神父様はそんな奴の怒声などまるっと無視して、問題の光珠を二つ出現させ、左右から奴をぶん殴っていた。
光珠の攻撃にセレニ・ダシュプールは左右に交互に吹き飛び、最後は先程の二倍の閃光の帯を体中に巻く付くかれる様に受け、『ぐギャぎゃギャ……!!!』と謎な声を上げた。
「………………しんぷ……さま……つよい?」
俺ってば……必要ない……?
―……い、いや、一人より二人の方が……!! 解呪を急ごう!
俺は何とかそう決めて自分を奮い立たせて、結界の解呪に挑んだ。
……神父様、せっかくの結界を……すみません!!!
そして俺があーだこーだとし始めてしばらく……して、急に外気が結界内に入り込んできたと感じた瞬間、それは……消え去ってしまった……。
流れる風を感じながら、俺はここで顔を上げ、辺りを見回した。
結界が……解除された? どういう……?
俺は周りの変化に驚きながらも、視線で神父様を捜し……思わず声が裏返った。
「神父様……!?」
俺は慌てて岩肌の結界から飛び出した。そんな、そんな、そんな……!
走りながらとりあえずズボンを掴み穿き、一番の問題の場所に全力で向かった。
そう、俺が全力で向かった方向には……
ぐったりとした神父様が幹肌を背に立っていて、俺は一瞬で……結界が解除された理由を理解した。
あの結界の解除は……神父様の意識と連動していて、今……神父様は気を失っている状態なのかと判断出来たのだ。
動かない神父様に、それを見つめるセレニ・ダシュプール……。
そんなセレニ・ダシュプールの青銀の靄は今は只単に周りに漂うものではなく、剣状の形をとりキラリキラリと煌いてる。
幾本もそれを自身前方に浮遊させ、いつの間にか血塗れ状態のセレニ・ダシュプールは神父様を見て赤瞳に冷酷と残忍性を浮かべて微笑んだ。
『……やっと捕らえタ……』
「………………」
『…………我バカリ血濡れデ気に食わぬ。お前はモット……』
「ま、待て!」
俺の突然の出現に、二人はほぼ同時に俺を見てきた。
そりゃーそうかもな?俺が居た岩肌はここから少し離れているのだ。
だってさ? 脚力が上がってる……んだ。
俺は二人の視線を感じながら、自分の身体の新たな変化に内心驚いた。
そして、俺の出現からいち早く戦闘態勢を整え、攻撃を繰り出したのは……
「……これで、終わりにしてやる……!!」
杖に絡まる蔦を解き放ち、それでセレニ・ダシュプールを縛り上げた……神父様だった。
伸びた蔦に光りが纏わりつき、その光りはやがてセレニ・ダシュプールを覆い尽くした。
その事で光る一塊となったセレ・ダシュプールを内部に収めて、今度は爆ぜ始めたんだ……!
そして閃光が起きる度に、セレニ・ダシュプールの作り出した青銀の剣は霧散していき、やがて全て消え去ってしまった……。
最後の剣の靄が消えたと同時にガクリと膝を付く様に身体を折ったセレニ・ダシュプールに、いつの間にか俺の隣りに来た神父様は静かに声を掛け始めた。
俺はあの自分の発した一声から全く……動けず、目の前の光景を処理していくに精一杯だった。
「……俺は聖職者という職業の制限上、お前を"殺す"事が出来ない……」
言いながら神父様は杖の先端をセレニ・ダシュプールに向けるのを止めた。
すると、あの蔦はスルスルとセレニ・ダシュプールから元の杖へ戻り納まった……。どういう仕組み……?
そして蔦の無くなったセレニ・ダシュプールは静かに声を発してきた。
『……ドチラの人選も間違えた。呪いデ仲間にと望んだ者も、その呪イを促進させる者モ……』
「ここから消えろ、闇の者。今なら、"消滅"は…………赦そう」
"殺す"のはいけなくて、"消滅"としてなら、出来る……と……。
でも、言葉の表面はそうでも、裏側はもっと複雑そうだ……。
『…………甘いナぁ……、神父。………………だが、ソレを受け入れた方が今の我にはヨサソウダ……。……神父……お前ノ名は……何ダ。ステア以上に……我ヲ、ここまで追い込んだ者の名ガ知りたイ……』
「…………エオル」
『"エオル"……。太陽の名を冠スルお前と、セレニ……月の名を持つ我とでハ、最初カラこうした"星"の奪い合いは無理な話……だったナ』
「………………………………そうだな……。……ステアは二人は居ない。俺のステアが居るだけだ」
そう言うと、神父様はセレニ・ダシュプールを睨みつけながら俺を抱き寄せてくれた。
力強い腕の檻に俺は自然と安心し、瞳を閉じて神父様にもたれ掛かった。
戦闘であの立派な法衣をボロボロにしてまでも、俺を護ってくれた神父様……。
俺の事、「俺のステア」って言ってくれた………………嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。
―………………嬉しい。とても、とっても……嬉しい……。……嬉しい。
「神父様……ありがとう御座います……。俺は神父様の……です……」
そして俺のそんな言葉から一呼吸置いて、セレニ・ダシュプールは俯き、どこか震える力無い声……を発してきた。
『……デ……ハ、……残念が、……………………ステア…………星ノ子は諦めよウ……。太陽の傍で、その光ヲ受けて輝き続けるガ良いさ……………………ステア……』
消え入りそうな声で言葉を吐き終えたセレニ・ダシュプールは今度は俯いてた面を上げ、いつもの不敵不遜なニヤリ笑いで呪いの言葉を俺に送ってきた。
『…………だが、その輝きヲ受けなくなったトキ、ステアは我が貰おうカ……。その為に、呪いは消さなイ……。半分は我と同じ一族として、そのままに生きるがイイ!! ………………ククククク……クク……クク………………』
そう言い残すと、白地を滲み出る赤で染めながら、それでも不敵に口で弧を描き、血塗れたセレニ・ダシュプールはその場に水溜りの様な水面を出現させた。
そして不思議にその水面に映る白昼の月に瞳を閉じ、片手を前に曲げ軽くお辞儀をする様に立つと、爪先から沈んで……………………消えた……。
…………消えたんだ……………………。
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