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第5話

俺は何故かその時、蓮さんがどこか遠くに行ってしまうのではないかと思い、咄嗟に蓮さんの腕を掴み、少し強引に引き寄せた。蓮さんは、突然の事ですんなりと俺の腕の中へ来る。 「お、おい。海斗?どうしたんだよ?」  ・・・タイミング的に今じゃないだろうか?と自分の行動に対して、ナイスと思いながら、じっと見つめる。蓮さんは少し戸惑いながらも、「海斗?」と再度、不安げに俺の名前を呼んだ。 「・・・蓮さん、俺ね。最近、すっごい気になることがあってね。今日もそのことで天ちゃんに相談してて、それで遅くなってたんだー。」 「・・・天音に、か?」  蓮さんの考えてることが手に取る様に分かる、ちょっとした嫉妬だ。なんで俺に一番に相談しねぇんだよ、ってところかな?こーいうのは分かるんだ、なのにあの時の蓮さんが分からない。だから、悔しいし、・・・一番は怖いんだ。 「えっと、その気になることってのが、・・・蓮さんがさっきみたいに寂しそうな顔するのはなんでかなーって・・・。だから、天ちゃんに相談したんだー。」 「・・・寂しい・・・?」 「うん、それも俺と2人でいるときに。・・・俺ね、蓮さんの事なら、大抵は分かっているつもりなんだ。でも・・・」 「気のせいだろ、別に俺はそんな風には思ったことはねぇ。」  蓮さんは俺の言葉を遮って、そう返した。・・・目線は俺には合わせてくれないまま。 「でも、本当に、何かあるなら俺・・・」 「ねぇって言っただろ?心配しずぎだっての。」  蓮さんはそう一言言って、その話題を避ける様に「じゃ、今日は俺が作るから。」と俺の腕を外しながら、何もなかった様に振舞った。・・・でも、やっぱり俺と目を合わせてくれることはなかった。  ・・・なんで、言ってくれないの?なんで、目合わせてくれないの?下唇を噛んで、その言葉を無理やり飲み込んだ。・・・胸にズンッと重く鈍い痛みを感じた。  もしかしたら、いつか言ってくれるかもしれないから、とその痛みもなかったことに、さっきのやり取りも胸の痛みも俺の中から消去した。・・・完全に消すなんて出来ないけれど、そういうフリをしてないと、足元から崩れそうだったんだ。 「・・・わーい!蓮さんの初の手料理ー!」  キッチンへ向かい、用意をし始めた蓮さんの手伝いを邪魔にならない程度にし始めた。いつも会話はない。・・・だけど、こんなに居心地が悪いものではない。言わなければ、こんな風にはならなかっただろうか、とすでに後悔の溜息を心の中でそっとついた。  ・・・その日の夕食は蓮さんの手料理で美味しかったはずなのに、味が1つも感じることが出来なかった。  

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