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第4話
その日からファオロ様は毎日毎日こちらへ飲みに来てくれた。最初の一杯は決まって「テキーラ・サンライズ」になった。自分が勧めたものを気に入って呑んでくれていることに俺自身も嬉しく感じていた頃、ある日を境にぱたりとファオロ様が来なくなった。
『・・・最後に来てくれた日はまた明日って挨拶したはず・・・。なんかあった、とか?』
来なくなって1週間がたった頃、仕事も終わり、帰る準備をしていると、ケータイが鳴った。見るとどうも登録されていない番号だった。普段であれば、取ることはないのだが、その時は取ってしまっていた。
「もしもし・・・。」
『レイイチ!出てくれた・・・、良かった。僕だよ、ファオロ。』
なんとなくそうじゃないかと思っていた。・・・というより、彼からの電話だったらいいのにと期待していたのが本当のところだ。
「ファオロ様、お久しぶりです。毎日、いらしてくださっていたので、もしかして、何かあったんじゃないかと心配していました。」
口に出さない様にしていた心の声が彼の声を聞くと、つい出てしまっていた。俺の言葉にシン、とし、返事をくれない彼にもしかして、引かれた?と内心焦っていると、電話口でボソボソと聞こえた。もしかしたら、雑音が入っただけかもしれないが・・・。
「ファオロ様?今、何かおっしゃいましたか?聞こえなかったのですが・・・。」
『・・・嬉しい、と。嬉しいと言ったんだ。』
その時のファオロ様の声はいつもと違う様に聞こえた。いつもは綺麗なテノールの高さで、聞いていて落ち着く声だ。あの温かな笑顔に似合う声だとも思った。だが、先ほどの”嬉しい”と呟くような絞り出した声はテノールではなくバリトンといったところか、耳元で聞いたせいか、何故か腰から崩れそうになった。赤く染まっているだろう頬を押さえながら、鞄を片手に店を出た。
「・・・そりゃあ、心配ぐらいはす・・・しますよ。」
恥ずかしさからかつい口調を崩してしまった。それに対しても恥ずかしいと内心呟きながら、口元を押さえる。裏手から出ると、暗いところに更に影が差した気がした。少し顔を上げると、いつもはビシッとスーツを着ているファオロ様がYシャツに緩めの、多分色は黒のパンツ、靴は小綺麗な革靴という恰好でケータイを耳にあてたままこちらを見ていた。
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