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第21話

「あれ?千秋ちゃん?」 「じ、仁先輩!?」 いかにも“今気がつきました”というように、白々しく声をかける。 千秋ちゃんは、俺に気がついてなかったようで、目を大きく開きながら、そこまでズレてもない眼鏡に手をかけた。 大学生時代からいつもサラサラだった髪が、今は休日らしく寝癖がついている。 上に軽く羽織っていても、下に着ている服はどう見てもパジャマで、足下もサンダルを履いていた。 常に真面目なイメージだった千秋ちゃんも、休みの日は少し抜けてるのかと思うと、素直に可愛く思えた。 「ははは、そんなに驚かないでよ〜」 「あ、いや、偶然こんなところで誰かに会うなんて思わなくて…恥ずかしいです」 そう言いながら、千秋ちゃんはパジャマを隠すように、着ている上着を引っ張った。 勝手に帰っておきながら、千秋ちゃんからの連絡をどこか待ってた俺の気持ちも、昨日のことも会話に出すことはせず話を続けた。 「そういえば、家ってこの辺なの?」 「はい、あのちょっと廃れた公園の先にあるマンションで…」 「え!俺もそのマンションだよ多分!」 あ、口から出た時には既に遅かった。 せめて反対側のアパートとか言っておけばよかったと思っても、全ては後の祭りだ。 「え……えっ!ほんとですか?」 顔が一気にパァッと明るくなり、さっきまでパジャマを隠そうとモジモジしていた千秋ちゃんの不安げな表情は、どこかへ吹き飛んでいた。 そんな嬉しそうな顔を見たら、可愛く思ってしまう。 「俺そこの502号室なんだ。千秋ちゃんは?」 「僕は203です」 「なんだ、結構近かったんだね。今まで会わなかったのが不思議なくらい」 「……嬉しいです」 千秋ちゃんは耳まで赤くしながら、少し下を向いた。 照れ隠しをするその行動に、俺は気づいたら頭を撫でていた。 「あっ、ごめん。突然頭撫でて…嫌だったよね?」 「いやっ、全然!あっあの……撫でてもらうの、好きです」 真っ直ぐ俺の目を見て、そう言った。 初恋もしたことがないわけでもないのに、なぜか好きって言葉に敏感になった。 正直、胸がドキッとしていた。 「一緒に帰ろっか」 また、口から自然と言葉が出た。

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