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第11話

狭い狭い、エレベーターの中。 強制的に密着させようとするこの空間で、男2人が何を話すわけでもなく、ただ手を繋いでいた。 千秋ちゃんの手汗と心臓の音が、やたら大きく聞こえる。 「先輩……緊張、してますか?」 千秋ちゃんが喋り出すとは思わず、ビックリして見れば、千秋ちゃんのかさついた唇が目に入った。 なんだ、無言でいる俺に不安を感じて、声をかけたのか…… なぜかホッとして、自然と繋いでいた手を離すと、自分の手がびっしょりと濡れていることに気づいた。 「うわっ、これ俺の手汗?!」 「2人分……ですね」 自分で自分の緊張が分かったところで、丁度よくエレベーターの扉が開く。 千秋ちゃんはクスッと笑って、俺に優しい表情を見せた。 俺の胸はまた、ドキリとさせられる。 うるさく点滅する部屋番号と、鍵についた部屋番号を確認して部屋に入ると、丁寧に2つ並べられたスリッパが目に入った。 その奥には扉があり、すぐ横には精算機がある。 「大丈夫?」 靴も脱がず、固まったままの千秋ちゃんの腰を押すと、ビクッと反応した。 狭い玄関に男2人でいると窮屈で、促すように頭を撫でた。 「だ、だ……大丈夫です!」 脱ぎやすそうなスリッポンが、不思議と脱げずに、もたついている。 本当に、大丈夫だろうか……。 仕方がないから、通勤鞄を置き、千秋ちゃんの前に屈んで靴を脱がせる。 一瞬見えた足は、真っ白で女の子みたいだった。 「すみません、ありがとうございます」 「世話が焼けるお姫様だなあ」 ハハッと笑って見せれば、千秋ちゃんは顔を赤くして、誤摩化すように眼鏡をあげ直した。 俺も靴を脱ぎ、部屋に繋がる扉を開けると、大体写真の通りに、綺麗な内装が見えた。 入ってすぐ横にトイレとお風呂、ドアのない脱衣所と洗面台。 その少し先を行くと、ソファと小さなテーブルがあり、その隣には大きなキングサイズ程のベッドがあった。 ここでこれから……と考えると動悸がして、ベッドから目を離す。 スーツを脱ぎながら、千秋ちゃんのいる方を見ると、入口の方でまた固まっていた。 好きな人とラブホテルに来たら、こんな反応になるんだろうか……。 未だ経験のない“好きな人とラブホテル”を考えながら、スーツをハンガーにかけて一息ついた。 「千秋ちゃんおいで!」 固まっている千秋ちゃんの前で大きく腕を広げ、ムードのかけらも感じさせないように呼ぶ。 一瞬驚いた顔をしてから、遠慮がちに寄ってきて、意外と俺の中にすっぽりと収まった。 それが可愛くて、ぎゅうっと抱きしめれば、千秋ちゃんも俺の背中に腕を回して、ぎゅうっとしてくれた。 俺と千秋ちゃんの心臓の音が、部屋中に響いて感じる。 落ち着いた頃を見計らって、千秋ちゃんの華奢な体を確認するように、手を這わせる。 筋肉もほとんどなく、細いのに、どちらかというと柔らかい体。 背中の骨が綺麗に浮き出ていて、そこを指一本でなぞって、尾てい骨に触れるか触れないかのところで、手を肩の方に戻していく。 くすぐったいのか、千秋ちゃんは体をよじった。 「あっ、あの……シャワー浴びてきます」 これから……というところで、冷静な判断を下す千秋ちゃんに、少し戸惑った。 このままの流れでグズグズにしたかった、なんて、悪いことを考えていたからだ。 大げさな音を立てながらソファに座り、珍しく足を組む。 気持ちを大きくして、このまま煙草でもふかしながら待てば“それっぽい”が、やたらと大きいテレビを見て、大人しく待つことにした。 その方が、きっと千秋ちゃんも、気張らなくていい。

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