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第12話

大きな画面に映るのは、下品な笑いを誘う番組ばかりで、特にいま見たいものではなかった。 ベッドに横たわることもできず、無駄に備え付けられているカラオケなんかするわけもなく、ただソファでボーッとする。 なんとなく携帯に目を移せば、メールを知らせる音が鳴り、できるだけ体を動かさずに携帯を取った。 さっきここへ来る前に、千秋ちゃんを家に送ると嘘のメールをしたから、それの返事だろう。 何も考えずに開くと、そこには意外な人からのメールが入っていた。 まゆぽん☆ To : 坂口 仁 ▼ ----------------------- 千秋ちゃん大丈夫だったー?? 仁くんも気をつけて帰るんだょー? まゆも気をつけるからね☆ 相変わらず、こういうところにマメで、複雑な気持ちになる。 メールの画面を開いたまま、ただただ見つめて、頭が勝手にまゆぽん先輩のことを考えた。 可愛くて、明るくて、人を惹き付ける魅力のある人。 簡単に、その気にさせる人。 もう、戻ってこない人……。 「仁先輩」 突然の声に驚いて顔を上げれば、火照って顔が赤くなった千秋ちゃんが、タオルを畳みながら立っていた。 初めて見る少し濡れた髪と赤くなった頬が、酷く魅惑的だった。 何を考えるより先に、体が勝手に動いて、力強く千秋ちゃんを抱きしめる。 そのとき、足下に、冷たいタオルが落ちた。 「んッ!んん〜〜」 抱きしめていた両手で頭を包み込み、逃げられないうちにキスをする。 千秋ちゃんの舌を追いかければ、熱く、今にも溶けてしまいそうだった。 呼吸はだんだんと荒くなり、反射的に逃れようとする腰を抱き寄せ、また唇を貪った。 エスカレートするこの行為に歯止めがきかず、俺の下半身を千秋ちゃんのそこに擦り付けるようにして当てる。 冷たく、ふにゃっとした感触がした。 あれ…… 「ま、待って……」 そして、勢いが一瞬止まった俺に、静止の声をかけた。 肩で荒い呼吸をしながら、目を合わせないようにしている。 "恥ずかしい"とか"おかしくなっちゃう"とか、可愛らしい意味の静止なら歓迎だ。 しかし、多分これは……。 「ごめんね、俺もシャワー浴びてくるよ」 千秋ちゃんの顔は見ずに、頭を冷やすため風呂場へ向かった。 俺のそこから、一気に熱が引いていくのが分かる。 シャワーの音以外聞こえない風呂場は、頭を冷やすのにもってこいだった。 まだ洗わなくてもいいのに、頭をガシガシと洗って、さっきのことを思い出す。 「はぁ……」 深い深い、ため息が出る。 千秋ちゃんに八つ当たりするように触れて、興奮して、逃げようとする体まで抑えて、独りよがりな行為をした。 同意でここに来たとしても、慣れてないのは分かっていたのに……。 そして、今の行為に千秋ちゃんは、全く興奮していなかった。 下半身が全てを知らせる部分……とは言い切れない。 言い切れないが、20歳そこそこの男が好きな人に触られて無反応って、ありえるのか……? 俺は、男とキスしただけで、これ以上ないほど興奮していたのに。 千秋ちゃんの熱い舌、バスローブ越しに伝わる体温、早く裸にしてしまいたかった。 数時間前まで心配していた男同士も、千秋ちゃんになら、俺は興奮している。 今も思い出して興奮するそこが、虚しく感じるほどだ。 寂しさを埋めるため……だからといって、酷くしすぎたことに気がつき、俺はこっそり、今夜は優しくすることに決めた。

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