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第13話

シャワーは20分もかからずに終わり、パッと身体を拭いてタオルを腰に巻き、千秋ちゃんの元へと戻った。 小さくBGMが流れ、それをかき消すようにテレビ番組の音が流れる。 千秋ちゃんはなぜか、ベッドの上に体育座りをして、ジーッとテレビを見ていた。 よほど番組を気に入っているのか、俺が出てきたことに全く気がつかない。 今夜は優しくすると決めたからには、ゆっくりと優しく、後ろから千秋ちゃんを抱きしめる。 「わっ」 「ちーあきちゃん、テレビ面白い?」 「あ、いや、その……ごめんなさい、あんまり見てなくて……」 番組を気に入っていたわけではなく、緊張を紛らわすために流していただけだったらしい。 そんなテレビを消し、千秋ちゃんの前に回り込む。 「ははっ、そっか。よしよし、そんなに緊張しなくて大丈夫だからね」 さっきのことを思い出して、また怖い思いをさせないように、精一杯優しく振る舞う。 千秋ちゃんの"好きな人"になりきろう……そう思うことにした。 「仁先輩……」 申し訳なさそうに、眼鏡をあげ直しながら、俺を見つめる。 まだ不安そうな顔をして、次は何をされるのかと、俺の行動を待っている。 「千秋ちゃん、手貸して」 両手を千秋ちゃんの前に持っていき、広げてみせた。 さっきまで、無理矢理キスをしてきた相手が「手貸して」なんて言うと思ってなかったのか、千秋ちゃんは驚いた表情をしている。 そして、無言で俺の手の上に、そっと自分の手を差し出した。 「千秋ちゃん、手すべすべで真っ白!女の子みたいだね」 そう言って、微笑んでみる。 そうすると、慌てて手を引っ込めて「冗談やめてください!」と、まんざらでもない表情をしながら、顔を真っ赤にした。 もう一度、無言で手を伸ばせば、素直に手を差し出してくれる。 そのまま手の感触を味わうように、手の甲を擦ったり、指をいじって恋人繋ぎをして、千秋ちゃんの反応をうかがった。 代わりにそれっぽい雰囲気は一切なく、千秋ちゃんは恥ずかしがりつつも嬉しそうに、モジモジしている。 手を止めて、目を合わせると、少しとろんとした目で俺を見た。 自然と恋人繋ぎをしながら、もう片方の手で、フワフワと頭を撫でてみる。 「ふふ、撫でられるの好き?」 「あ……そう、みたいです」 あまりにも嬉しそうに、手にすり寄ったから訊くと、恥ずかしそうに頷いた。 千秋ちゃんは、はじめて歩くことを覚えたかのように、少しずつ進んで行く。 俺にとってはそれが初めてのことで、新鮮に感じた。 でも、そろそろもう一歩進めてもいいかな……。 恋人繋ぎをしたまま千秋ちゃんの手を自分の唇に近づけ、優しくキスをする。 目は離さず、できるだけ誘うように。 「あ……」と、千秋ちゃんが小さく、声を漏らした。 抵抗はなく、俺の目を潤んだ瞳で見つめる。 それからおでこに、鼻に、口端に……キスを落としていく。 「千秋ちゃん、もっとしていい?」 少し上目遣いで訊けば、千秋ちゃんは耳まで真っ赤にして、首を縦に振った。 嫌じゃない、それが分かれば、俺は行動にうつす。 千秋ちゃんの唇にちゅうっと吸い付いて、そのまま、覆い被さった。

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