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第16話

大の字になっているベッドが、やたらと大きく感じた。 思わず、息をはぁと吐き出す。 あまりにも自然と出たため息にハッとして、千秋ちゃんを見ると、眉が下がり今にも泣きそうな顔をしていた。 心臓が、ドクンとなる。 冷静に考えれば初めてのラブホテルで、自分が感じないことに、不安を感じていないわけがない。 それに、千秋ちゃんのことだから、自分で不感症と言うにも勇気がいっただろう。 はぁ、俺が不安にさせてどうする……。 ここまで連れて来たんだから、もう少し、千秋ちゃんが好きな先輩らしくしろよ……俺。 「ごめんね、千秋ちゃん……俺ね、ちょっと緊張しちゃった」 ゆっくり起き上がり、ベッドに座っている千秋ちゃんの目をしっかり見つめる。 自分ではだけさせたバスローブをまた着せて、千秋ちゃんをぎゅっと抱きしめた。 包み込んだ小さな体は、呼吸を乱さないようにしながら震えていた。 「千秋ちゃん……ごめんね、ごめんね、泣かないで」 俺の行動は、千秋ちゃんを泣かせるに十分だった。 できるだけ音を立てず、静かに泣く千秋ちゃんに心が痛む。 千秋ちゃんは繊細で純粋だと、数時間だけでも分かっていたはずなのに、俺は本当に嫌なやつだ。 触れ合う時間のほんの一瞬だけでも、まゆぽん先輩を忘れたいと思って、自分勝手に行動したことが原因だ。 あぁ、千秋ちゃんといるだけで、今まで忘れられてたんだ……。 俺は千秋ちゃんの頭を撫でて、おでこにキスをした。 「せんぱ…い……嫌わないで…」 俯いて目にいっぱいの涙をためながら、千秋ちゃんは必死に言った。 “嫌わないで”なんて。 これ以上、千秋ちゃんを泣かせたくない。 「今日はもう寝よう?ほら、涙拭いて」 「いや!いやです……もう、してくれないんですか?僕は、まゆ先輩の代わりにも、なれませんか?」 普段はキツく見える千秋ちゃんの目も、今は弱々しく見える。 いくら拭いても、涙が溢れてくる理由はこれか。 俺が、千秋ちゃんにこの言葉を言わせているのかと思うと、胸が痛くなった。 千秋ちゃんは俺が好きで、俺は千秋ちゃんを好きじゃない。 だけど、俺はそんなに器用じゃないよ。 「俺はね、千秋ちゃんとエッチなことをしたいだけじゃないよ。千秋ちゃんと俺は付き合ってる。だからね、千秋ちゃんは俺の隣にいてくれればいいの」 「……付き合ってる」 「そう、だから千秋ちゃんと一緒にいられれば十分、ね?」 「僕、男ですよ?」 「今更なに言ってるの?もう、ばかだなぁ……」 本当に今更なことを言う千秋ちゃんが、どうしようもなくて、強く強く抱きしめた。 最初に企んでいたことも忘れて、このまま眠りたい。 「んん…苦しいです」 「ごめんごめん」 まだ涙目の千秋ちゃんも少し落ち着いたようで、遠慮がちに俺の背中に腕を回した。 今日はこのまま寝ようと、千秋ちゃんに腕枕をして抱きしめる。 千秋ちゃんの髪から、なぜか俺とは少し違うシャンプーのいい匂いがした。 「僕、仁先輩のことが好きです」 俺の鎖骨あたりに顔をうめて、二回目の告白。 このタイミングは卑怯だなぁなんて、心の中で思う。 「うん、ありがとう」 お互いに心臓の音が平常になった頃、久々に人肌を感じながら眠りについた。

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