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第17話

目を開けると、見慣れない部屋にいた。 いつもの布団とは違い、修学旅行の朝のような感覚。 とりあえず起きようと思い、お腹に力を入れると、身体が重く起き上がれなかった。 「んん……」 突然聞こえた自分以外の声に、心臓がうるさく反応した。 声がした方を見ると、誰かが小さく縮こまっていて、布団に顔まで潜り込んでいる状態だった。 そんな“誰か”のことは、一瞬で思い出せてしまった。 俺を抱き枕にしている腕をどけて、ゆっくり身体を起こす。 布団を上げたとき見えた、スースー寝息をたてて気持ち良さそうに眠る千秋ちゃんが可愛い。 かわいい……? ふと出た自分の気持ちに少し戸惑い、まだ夢なんじゃないかと目をこすった。 ただ、思い返してみてもこれだ。 ・映画研究部の飲み会で、忘れたいほどの報告があった。 ・その憂さ晴らしなんて最低な理由で、千秋ちゃんの告白を受け入れた。 ・男に興味なんてないのに、千秋ちゃんは特別可愛く感じる。 ・今、千秋ちゃんと朝チュン。 ついでに付け加えるなら、千秋ちゃんが可愛いから男でもいけると思って付き合おうと思ったこと。 このラブホテルには、自分で誘ったこと。 千秋ちゃんに勃起したこと。 ……今日は、このまま帰ろう。 急いで、昨晩脱いだパンツやらパキパキのスーツを着て、ホテルから出る準備をする。 千秋ちゃんには悪いが、今すぐここを出たい気持ちでいっぱいだ。 ただ、昨日あれだけしておいて、朝起きたら“仁先輩がいない”なんてことがあれば、千秋ちゃんは傷つく。 これ以上傷つけたくないが、このまま千秋ちゃんの横で寝て、どうすればいいのかも分からない。 あまり音がでないよう静かに、自分のバッグから手帳とペンを取り出した。 “千秋ちゃんへ。今日は朝から会議があるので先に出ます。一緒に出られなくてごめんね><” この下に名前と、電話番号とメールアドレスを書く。 枕元に置いてある千秋ちゃんの眼鏡の隣にメモを置いて、布団をかけなおしてから部屋を出た。 幸運なことに、チェックアウトより数時間は早く、誰ともすれ違わない。 眩しい光を感じながらホテルの外へ出て、大人しく駅に向かう。 焦って髪を何もしなかったことで、なんとなくお泊りしてきました感がして嫌になる。 きっと、自分だけしか気づいてない恥ずかしさだ。 変に髪をいじりながら各停電車に乗り込み、ゆっくりと目を瞑った。 千秋ちゃんから連絡のある確率と、また会う確率は、かなり低いだろう。 千秋ちゃんともし次会うことになったら、恋人らしく何をしよう。 男同士の付き合い方って、どんなだろう。 ……俺の頭は、千秋ちゃんでいっぱいだった。

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