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第18話

最寄駅から、徒歩4分。 大きいマンションが並ぶ中もう少し進むと、20部屋ほどの小さなマンションがある。 あまり人に会うことはないが、朝の8時過ぎにもなると、ゴミ捨てに出てきた主婦たちが会話に花を咲かせていた。 ジリジリとした日差しが身体の熱を上げていく。 さっきまであった冷たい風も、知らないフリをしているらしい。 「おはようございますー」 「あら〜坂口くんおはよう」 「やーねーいいスーツで朝帰り?」 「そんなこと突っ込まなくても!いい大人なんだから〜」 「やだーアタシったら!」 隣の大きいマンションに住む主婦は、上品さには欠けていても、馴染みやすい近所の“おばちゃん”だ。 ただ欠点として、あまり触れてほしくないことまで、ガツガツと突っ込んでくるところがある。 おばちゃん達を誤摩化してから、そそくさとマンションに入る。 コンクリートの壁に青いドアが、外からでも目立つ。 そこを気に入って住んでいるわけではないが、小さくても一応デザイナーズマンションらしい。 「ただいま」 なんとなく、いつもの習慣として言う。 誰からも返ってはこないが、決して寂しいなんて思ってはいない……ない。 靴は揃えずに脱ぎ、ジャケットとスラックスはハンガーに掛け、靴下とYシャツを洗濯機に入れてから手洗いうがいをする。 パンイチになると、昨日の朝脱ぎ散らかした部屋着を着て、ソファにダイブした。 やっと、何かから解放された感覚になった。 ガラスのテーブルに似合わない機械的なテレビのリモコンを取り、テキトーにテレビをつける。 休日の朝は特に面白い番組もなく、録画していたドラマやバラエティもない。 テレビの下にズラーッと並べられた映画のDVDは、とうに見飽きた。 買ったら何回も観てしまいすぐ飽きるクセは、学生の頃から変わらない。 「あー…千秋…ちゃん」 無意識に、人の名前を呼ぶという気持ち悪さを発揮した。 そうだ、誰かと寝たのは久しぶりで、きっと体が疲れてるんだ。 よく寝たとしても、睡眠時間として体が満足してないのかもしれない。 そうとすれば、テレビを消して今度はベッドへダイブする。 実家と同じ懐かしい香りに包まれながら、簡単に眠りについた。

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