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第15話

それから、千秋ちゃんは小さな声で「ごめんなさい」と言った。 その姿を見て、胸がチクリと痛む。 男なんだから、そんなこともある。 好きな子を前にして勃起しないことも、何も考えていないのに勃起することだって。 今日は、飲み会だったんだ。 ベロベロになった千秋ちゃんが、酒の影響を受けている可能性は大きい。 そうだ、だから大丈夫だ。 「大丈夫大丈夫、千秋ちゃんはこういうこと初めて?」 そう言いながら、備え付けされた冷蔵庫を開け、そこから水を取り出す。 よく知らない見たこともない銘柄の水だ。 キャップを開けてから、千秋ちゃんに水を手渡す。 「はい……あ、ありがとうございます」 「まぁ、そうだよね〜」 体を起こした千秋ちゃんの横で、俺はベッドで大の字になった。 千秋ちゃんの小さな唇に、中の液体がとぷとぷ注ぎ込まれる様子を、下からじっと見つめる。 水と電気が反射して、千秋ちゃんが、キラキラして見えた。 「千秋ちゃん…」 勝手に出た自分の声に、ハッと我に返る。 さっきから自分が置かれている状況の言い訳を考えては、自分に言い聞かせて、無理矢理飲み込んでいた。 どこにもやれないこの感情は、どうすればいい? 思えば、キスをしている時もどこか触れた時も、そこに触れた時も声は出ていなかった。 今まで俺が出会ってきた女性は演技だったのか、ここまで何も発さない人はいなかったと思う。 人としての反応はあっても、身体の、本能的な反応は何もなく、じわじわと内側から浸食されているような気分だ。 ああ、ただの穴埋めなのに。 「ごめんなさい……あの、僕、不感症の可能性が…」 「不感症……」 不感症? 繰り返して言ってみるも、なぜか腑に落ちなかった。 俺が知っている不感症は、感じないというアバウトなことだけ。 もし本当にそうなら、千秋ちゃんは何も悪くない。 だけど、俺の中のピリッとした感情が、溢れそうになる。 少しの気の迷いなんて、こんなもんかもしれない。 「……今日は疲れちゃったね、もう寝ない?」

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