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第4話

まゆぽん先輩がお祝いされる中、トイレへ逃げる女々しさを発揮した。 ガヤガヤとうるさい通路を通り、店員さんと目が合いそうになるのを避ける。 絶対いま、変な顔してる…… 大学生時代から行き慣れたトイレに向かうと、当時より清潔感に溢れたトイレがそこにはあった。 小便器は3つ、個室は2つ、そこには運よく誰もいない。 「はぁ…」 無駄にいい香りのする花が置いてある鏡の前に立ち、一つため息をつく。 ため息をして幸せが逃げていっても、今はもう関係ない。 数分前まであった淡い期待は、幻想だったかのように、一瞬で消えていった。 まゆぽん先輩は可愛くて人柄も良く、人を惹き付ける。 これだけの時間があれば、男が放っておくはずがなかったんだ。 何か、もうちょっと行動にうつしていれば、今が変わったのかなぁ…… 大学で一緒だった頃に、勇気を出せばよかった…… 後悔ばかりが、頭を駆け巡る。 「あの、仁先輩大丈夫ですか?」 足音もなく突然、入口の方から声がした。 驚いて、勢いよく振り返ると、そこには映画研究会の1年後輩、小西千秋がいた。 小柄で色白、サラサラの黒髪、洒落っ気のない眼鏡、性別が違えばどこかのアニメキャラクターのような彼。 名前こそは知ってるものの、特に思い出も探し出せないほど、ほとんど関わった記憶がない。 それでも、眼鏡の奥にある千秋ちゃんのキリッとした目が、今はものすごくキレイに見えた。 「あ……千秋ちゃん!千秋ちゃんは、個室入るタイプかと思ってたよ〜」 小便器の前にも、個室にも向かわない千秋ちゃんはきっと、俺に用がある。 何か言わなきゃとテキトーなことを言って、へらっと笑って見せた。 「先輩…まゆ先輩のこと、好きでしょ」 また突然、何を言い出すのかと思えば、思ってた以上に的確なこと。 お酒を飲んだからか、千秋ちゃんのキレイな目が真っ直ぐに俺を見るからか、誤摩化せなかった。 「千秋ちゃん……なんで、そんなこと……聞くの?」 だって、こんなにも俺の声が震えてるから。

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