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【リクエスト】約束
「なぁ、和彦。俺が死んだらさ、律希の面倒みてやってくれないか」
消毒用アルコールの匂い。
真っ白なシーツ。
点滴が親友の体の中に入っているが、その点滴は決して親友の病気を治してはくれない。
ただ、じわじわと迫る死期をほんの少しだけ遠ざけるだけ。
「お前、何言ってるんだよ。僕が子どもの面倒なんて見れるわけないだろ?」
「やってみなきゃ、分からない。俺だって、律希があいつのお腹にいるって聞いた時、ビビったし、面倒なんか見れないって思ってたけど、何とかなってくし、何とかしなきゃいけないんだ」
真っ白な顔が歪む。
何とかして、自分の子どもを守ろうとする父の顔だ。
こいつ、こんな顔もするようになったんだな。
学生の頃のことを思い出す。
明るい笑顔、冗談を言う時に片方の口角が上がる癖……。
僕はそんなお前が好きだった。
「頼むよ……和彦……」
お前にそんな顔されたら、断れないだろ。
親友の子ども、律希の面倒は、律希が十八になるまでの約束だ。
初めてあったのは、律希が小学生の時。
父親というより、母親似だと思った。
だけど、月日が経つ度にだんだん父親に似てきて……律希と父親を重ねてしまう。
「和彦さん」
無邪気に僕を呼ぶその声は、いつしか別の響きを持つようになっていた。
明後日は、あいつの七回忌だ。
律希も十八になる。
僕はお役御免になるわけだ。
縁側に座りながら、そんなことをぼんやり考えていた。
隣に座る律希は、少し落ち着きなく、何かを話そうとしている。
律希が話し出す前に、僕は「律希くん」と話しかけた。
「七回忌、終わるね」
「はい」
「やっと自由になれるね、長かったね」
僕は律希にそう言うと、彼は何を言っているんだと言わんばかりに、目を見開いていた。
そんな驚いた顔も、あいつそっくりで……。
僕みたいなむさ苦しいおっさんといるより、足枷もなく自由に生きられるだろ?
そう言うと、律希は泣きそうな顔で僕を見ていた。
「僕、和彦さんと離れたくないんです、お願いします!僕、僕はずっと、和彦さんのことが」
律希は僕のことが好き。
何となく分かっていた。
律希の態度、視線、言葉。
それら全てが、『好きだ』と物語っている。
「それなら、なおさら僕はここから出てかなきゃ」
折り合いをつけて、あいつに似てる君を愛せたら、どれだけ楽だろう。
でも、ごめん。
「僕には、生涯愛し続けると誓った相手がいてね。ごめんね」
あいつの代わりは、例えあいつそっくりな君でも、愛せない。
「その相手って……父さん?」
僕は、ただ微笑むだけしかできなかった。
『お前、不器用だなぁ』
いつだったか言われたあいつの言葉が蘇る。
そうだよ。僕は不器用だ。
だって、僕は、お前しか愛せないんだよ。
《あとがき》
リクエストにお答えして、海堂楓さんのサマーナイトコンテスト作品、「もうひとつの約束」を和彦さん目線で書いてみました。
決して交わることない一途な思い……。「もうひとつの約束」を読んだ時、切なくて切なくて、胸が張り裂けそうになりました。
是非、「もうひとつの約束」も読んでみてください。そちらは律希くん目線で描かれております!
楓さん、リクエストありがとうございました♪
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