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第436話
「それがヤなんだって」
「もー、わがままだなぁ」
「っ……向こうでも、洗濯とかってできるのかな……」
「そんなに着たくないの?」
「う……だって……」
一応男性用の服ではあるものの可愛い色やデザインばかりで、趣味じゃない。あれを着るくらいなら、毎日同じ服を着ていた方がマシだ。
「じゃあ、今度の日曜日買いに行こっか」
「でも、また変なの買うんでしょ」
「純の好きなの買ってあげるから、行きたい店あとで教えて」
ほんとに? あの正和さんが?
なんだか普通の人みたいでおかしい。最近の正和さんは優しすぎて、裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「何?」
けれど、彼の様子は至って普通で何かを企んでいるようには見えない。
「ううん、なんでもない」
「お皿貸して」
「あ、ありがとう」
食べ終わった皿を重ねてキッチンへ持っていってくれた彼に御礼を言って、自分も二人分のグラスをキッチンに運ぶ。すると、台拭きを持って戻ろうとした彼は、その場にピタッと立ち止まり、楽しそうに笑みを浮かべた。
「そうだ、水着も買いに行こうか。セクシーなやつ」
「っ、やだよ! 絶対着ないからね!」
「二人だけならいいでしょ? せっかく部屋にプールもついてるんだし着てよ」
「やだ!」
「えー。純のいじわるー」
……やっぱり、正和さんは正和さんだ。
「減るものじゃないんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃ……」
彼はそう言うけれど、何かが減る気がする。いや、そんなものを着たら確実に俺の体力が減るに決まっている。
「てか、勉強教えてくれる約束!」
「……純のケチ」
ぶつぶつ文句言う彼の言葉を聞き流して、勉強道具を準備すれば、彼も真面目に教えてくれた。以前とは違って、文句を言いつつ俺の意見もちゃんと聞いてくれる彼はちょっと可愛い。
……まあ、少しなら彼が選んだ服も着てあげてもいいかな、なんて。エロい水着は絶対着ないけど。
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