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第439話
「……てか、昨日のドラマ見た?」
「あーまだ見てない。最終回だから録画はしたんだけど──」
嫌な話題を終わらせるように拓人が話し始めれば、笠原もその話に乗った。勇樹も悪気はなかったのか、いつも通り楽しそうに会話に混じる。
少しモヤモヤするけれど、拓人たちの気遣いに感謝しながら、正和さんが作ってくれたお弁当を開けた。
*
「正和さんニュースになってた」
「ああ、記事見たの?」
昼間の会話を思い出して彼に話を振れば、彼はなんともない顔でキュウリの漬物をつまみながら返す。
「うん。拓人に見せてもらって自分でも調べた」
「そっか。……惚れ直した?」
「正和さんキメ顔で笑いそうになった」
「ひどいなあ。かっこいいでしょ?」
いや、まあカッコいいけど。普段から見慣れているせいか、キメ顔してる正和さんの顔は面白いだけだった。けれど、女子が見たらキャーキャー騒ぐんだろうなと想像して少しモヤッとする。
「……あのさ」
「ん?」
「もし……俺にできることとか、相談とかあったら……言ってね」
「どうしたの急に」
正和さんはクスクス笑って箸を置き、俺の顔をのぞき込む。
「……俺、一緒にいるのに正和さんの仕事の事とか、全然知らなかったなって思って……役に立たないかもしれないけど、俺も手伝いたい」
「ふふ、ありがとう。今は気持ちだけで十分だよ」
微笑んだ正和さんは優しくそう言うけれど、やっぱり俺じゃ仕事の役には立たないよな……と考えて少し落ち込む。そんな俺を見て、正和さんは考える素振りをした。
「あーそうだ。じゃあ、早速お願いしちゃおうかな」
「え、なに?」
「三年生になったらオール五とってきて」
「へ……?」
「純さ、今の成績酷いよね~?」
「え、いや、あの……っ」
「うん? 一年生のとき成績良かったんだから、やればできるでしょ?」
「だって、でも、それは正和さんが……!」
「俺が何?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた正和さんに、それ以上言い訳することはできなくて唇を噛む。
「~~っ……うう、頑張り、ます」
「ふふ、お利口。デザートはイチゴあるよ」
「うん……ありがとう」
自分のことすらできていないのに、彼のことを手伝えるわけがなかった。それを思い知らされて、悔しいやら、恥ずかしいやら、まだまだ正和さんには追いつけないなと思った。
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