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第440話
*
夕方から仕事だと言う正和さんに合わせて、起き上がる。まだ少し寝たりないけれど、お昼寝にしてはのんびりし過ぎた。少し早いが夕飯の時間だ。
「眠かったら寝ててもいいよ」
「ううん。大丈夫」
だが、ベッドを抜け出してリビングへ行くと、ソファに見慣れない物体が置いてあって、ぎょっとする。大きな黄緑色のそれは、植物のような見た目で少し気持ち悪い。抱き枕かぬいぐるみだろうか。
「何これ?」
「ああ、今日ホワイトデーだから、お返し」
「……いや、何コレ」
「ウツボカズラの寝袋?」
「…………」
──何でコレを? なんでこれをチョイスした?
ホワイトデーは特に期待していなかったけれど、少しは気になっていた。もしかしたら何かしてくれるのかなって。
それがこんな変な寝袋とは……正直、全然嬉しくない。今すぐ捨ててしまいたいくらい見た目も残念だ。
「純が前に、俺のこと食虫植物に似てるよねって言ってたから。純欲しいもの聞いてもないって言うし」
「はあ……?」
「俺が帰り遅いときも寂しくなくていいでしょ? 今日早速使ってよ」
てか、正和さんはウツボカズラじゃなくて、ハエトリグサとかそっち系なんだけど。
そう思っても口には出せず、ウツボカズラの寝袋をじっと見つめる。
「正和さん……」
「うん?」
「食虫植物に似てるって言ったの怒ってる……?」
「怒ってないよ」
「ほんとに?」
「うん。言われた時はちょっとショックだったけど」
「っ……でも正和さん、黒豹のが似てるよ。凄く……カッコ良い、し……」
「別にフォローしてくれなくていいよ。気にしてないし。帰り遅くなるとき、純いつも俺の枕抱えてるでしょ? だから俺の代わり」
そう言った彼は優しく笑って、俺の頭をくしゃりと撫でる。どうやら嫌味でプレゼントしてきたわけでもなさそうだ。
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