452 / 494
いじわる彼氏とハネムーン 452
正和さんはカレー味とシナモン味のドーナツを頼んでいたから、あとで一口だけ分けてもらおう。そう思いながら、注文したものが出てくるまでメニューをじっと見つめた。
「……あ、これ食べたい」
「どれ?」
「アイスサンドのドーナツ。美味しそう」
「頼んだら?」
「んー……でも食べきれない気がする」
「残ったら食べるよ」
少し迷ったけれど、彼の言葉に甘えて追加注文することにしたら、テーブルはドーナツで埋めつくされた。
思っていた以上に一個が大きいし量が多いけど、見ているだけでも幸せだ。
「──おいしい」
ふわふわで、口の中にじゅわっとドーナツの甘みが広がって、思わず笑みがこぼれる。ドーナツの中から甘酸っぱいベリーソースがとろりと溢れて、こぼれ落ちないように慌てて舌で掬い取った。
「それはよかった」
すると、そう言った彼の方から「カシャッ」とカメラの音が聞こえてくる。反射的に顔を上げれば、デジカメを構えていた彼が再びシャッターを切った。
「あ、食べてるとこ撮るなよ……!」
「だって可愛いから」
「は? って、あぁっ……正和さんが変なことするからこぼれたじゃん!」
「えー、俺のせい?」
薄紅色に染まった白いシャツをペーパーナプキンでゴシゴシ拭う。けれど、くっきり色がついてしまったそれはほとんど落ちなかった。
まあ、ちょこっとだし、そんなに気にならないだろうしいっか。なんて思いつつ、やっぱり綺麗にしたくて、ぎゅっ、ぎゅっと拭いた。
「そんなに擦ったらだめだよ」
彼は新しいペーパーをとると、一枚をコップの水で濡らして、服の裾から、するりと手を忍ばせてくる。
「ちょっ……」
「ほら、動かないで」
彼はシミになった部分をトントンと優しく叩いた。そうすれば、先ほど落ちなかったのが嘘のように、綺麗に汚れが落ちていく。これならほとんどわからない。
「わー……綺麗になった。ありがとう」
「ほら、冷めないうちに食べて」
そう言われて、次々と口へ運んだドーナツは、どれもとても美味しかった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!