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いじわる彼氏とハネムーン 452

 正和さんはカレー味とシナモン味のドーナツを頼んでいたから、あとで一口だけ分けてもらおう。そう思いながら、注文したものが出てくるまでメニューをじっと見つめた。 「……あ、これ食べたい」 「どれ?」 「アイスサンドのドーナツ。美味しそう」 「頼んだら?」 「んー……でも食べきれない気がする」 「残ったら食べるよ」  少し迷ったけれど、彼の言葉に甘えて追加注文することにしたら、テーブルはドーナツで埋めつくされた。  思っていた以上に一個が大きいし量が多いけど、見ているだけでも幸せだ。 「──おいしい」  ふわふわで、口の中にじゅわっとドーナツの甘みが広がって、思わず笑みがこぼれる。ドーナツの中から甘酸っぱいベリーソースがとろりと溢れて、こぼれ落ちないように慌てて舌で掬い取った。 「それはよかった」  すると、そう言った彼の方から「カシャッ」とカメラの音が聞こえてくる。反射的に顔を上げれば、デジカメを構えていた彼が再びシャッターを切った。 「あ、食べてるとこ撮るなよ……!」 「だって可愛いから」 「は? って、あぁっ……正和さんが変なことするからこぼれたじゃん!」 「えー、俺のせい?」  薄紅色に染まった白いシャツをペーパーナプキンでゴシゴシ拭う。けれど、くっきり色がついてしまったそれはほとんど落ちなかった。  まあ、ちょこっとだし、そんなに気にならないだろうしいっか。なんて思いつつ、やっぱり綺麗にしたくて、ぎゅっ、ぎゅっと拭いた。 「そんなに擦ったらだめだよ」  彼は新しいペーパーをとると、一枚をコップの水で濡らして、服の裾から、するりと手を忍ばせてくる。 「ちょっ……」 「ほら、動かないで」  彼はシミになった部分をトントンと優しく叩いた。そうすれば、先ほど落ちなかったのが嘘のように、綺麗に汚れが落ちていく。これならほとんどわからない。 「わー……綺麗になった。ありがとう」 「ほら、冷めないうちに食べて」    そう言われて、次々と口へ運んだドーナツは、どれもとても美味しかった。

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