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いじわる彼氏とハネムーン 457

「あのさ……タキシードでも、写真撮る……?」 「もちろん。純が嫌じゃなければ」 「そっか。……そっちは俺も楽しみ」 「ふふ、たくさん撮ろうね」  四十分ほどして車が停車すると、ビーチのすぐ近くで下ろされた。ヘアセットのお姉さんがドレスの裾を持ってくれて、真っ白な砂浜に足を踏み入れる。 「わあ……すっごく綺麗……!」  昨日見たホテルのすぐ側のビーチも青くて綺麗だったけど、ここはもっと(あお)い。透き通ったエメラルドグリーンの水面はキラキラ輝いていて、砂浜が白いせいか、とても幻想的だった。 「だから言ったじゃん」  カメラマンはそう言って、俺たちを波打ち際のほうへ誘導する。  こんなに綺麗で、かなり広いビーチなのに、不思議なことに人はほとんどいない。遠くの方で、現地人と思しき人が一人サーフィンをしているが、他は俺たちだけだ。 「人いないね」 「ここは観光にはあまり来ないからね」 「へえ……そうなんだ。こんなに綺麗なのに」 「道が悪いから、みんなもう一つ隣のビーチに行くんだよ」 「──はーい、じゃあ手繋いでー。純くんはブーケ持った手でスカート上げて、二人とも目線はそこのヤシの木の真ん中あたりで」  先ほどとは表情がガラリと変わって真剣な顔をしたカメラマン。少し離れたところから彼が指示を出して、お姉さんがスカートを綺麗に寄せて持たせてくれる。 「笑って、笑ってー。そうそう、今度は目線こっち、カメラの方で。そのままゆっくり歩いてきて」  ポーズを変えて何枚も写真を撮っていくと、次第に余裕が出てくる。最初は恥ずかしかったそれも、少しずつ慣れてきて表情もだいぶ柔らかくなってきた。  誰もいないから周りを気にすることもないし、この調子なら簡単に終わりそうだ。そう思っていたのに。 「オッケー。じゃあ、まーくんはしゃがんで……そう、純くんはまーくんの後ろから左ほっぺに軽くキスして」 「っ……」  き、キス……!? 今? ここで?

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