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いじわる彼氏とハネムーン 462

 わざわざ美容師までこちらに呼んでしまうなんて、彼の感覚はちょっと理解できない。けれど、久々に髪を切ってもらえるのだと思うと嬉しかった。どんな髪型にされるのか若干ドキドキする。 「──今日はどんな感じにしましょう?」  美容師の男性と軽く挨拶した後、ドレッサーの前の椅子に座るとニコニコしながら話し掛けられた。掃除がしやすいようにか、床にはビニールシートが敷いてある。 「え、えっと……」  正和さんの方をチラリと見れば、「どうしたの?」とでも言うようにニコリと微笑む。 「……俺の好きにしていいの?」 「もちろん。でも、丸刈りは嫌かな」 「それは俺もやだよ。あ、……ちょっと待ってください」 「はい」  ニコニコしながら頷いた美容師をあまり待たせないように、急いで過去の自分の写真を探す。正和さんと出会う前の髪型は周りからの評判も良かったし、自分でもかなり気に入っていた。 「──こんな感じにできますか?」 「できますよ~。後ろの写真とかあります?」 「後ろはこれくらいで……」 「わかりました。クロスつけますねー」  髪の毛を()かされた後、ハサミの刃先が髪に吸いつくようにスッと入る。その様子をドキドキしながら見守れば、肩にかかっていた長い髪はバッサリ切られて、耳に少しかかる程度になった。  顔周りの長いところでも耳たぶくらいの長さで、襟足は生え際の辺りで綺麗に揃えられる。  久々の短い髪は少しスースーして変な感じがするけれど、さっぱりしてとても良かった。  カットが終わった後は、ゆっくりベッドで休みたくて、一番奥の部屋へ行った。美容師の見送りが終わった彼も近くに来て、俺の顔をまじまじと見てくる。 「かわいい……すっごく可愛い」 「えっと、ありがとう? てか可愛くはないじゃん」 「可愛いよ。じゅーん、もっとこっち来て」  グイッと腰を抱き寄せられて、そのまま大きなベッドに押し倒される。彼の強引な仕草に少しドキッとしてしまうけど、今日は疲れているのでご遠慮願いたい。  明日だって挙式や撮影があるのだ。今そんなことをしてしまったら体がもたない。

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