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いじわる彼氏とハネムーン 466

 結婚式と言うとたくさんの人が集まって、ケーキ入刀をしたり、食事をしたりというイメージだった。だが、俺の思い浮かべていたそれは披露宴だったらしく、二人だけでする結婚式は、いたってシンプルなものだった。  オルガンの音が聞こえてきて、いよいよ式が始まる。  真っ白なタキシードに身を包んだ俺たちは顔を見合わせて、そっと手を握った。 「……緊張する」 「大丈夫だよ」  そう言って彼はふわりと笑うと、ただ握っていただけの手を繋ぎ直す。それぞれの指を絡めてキュッと握られれば、そこから彼の体温が伝わってきて、とても落ち着いた。  チャペルの扉が開いて、リハーサル通り彼と一緒にゆっくり入場する。  真っ白なチャペルの奥には神父がいて、そのさらに後ろの窓ガラスの向こうには、碧い海がキラキラ輝いていた。  数人のスタッフが見守る中、祭壇までゆっくり進むと、外の様子がよく見える。リハーサルの時は流れを覚えるのにいっぱいいっぱいで、それどころではなかったから、こんなに景色が良かったなんて気が付かなかった。  綺麗な景色に魅せられて、いつの間にか緊張も解れている。  澄み渡るような青い空に、飾り付けられたたくさんのお花、綺麗な歌声の聖歌、どれもが幻想的で、なんだか泣きそうになった。  ──結婚、するんだ。  正和さんに結婚式をすると言われた日のことを思い出して、歌を聞きながら感慨に(ふけ)っていたら、神父が話し始めた。彼は日本人ではないけれど、流暢(りゅうちょう)な日本語で、聖書を朗読し語りかけてくる。 「──正和さん、あなたは純さんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。(なんじ)健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、この方を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」 「はい。誓います」  正和さんの凛とした声に胸がドキッとする。いつもとは違って、爽やかだけど、それだけじゃなく力強くハッキリした声に、彼の決意と気持ちが表れていた。

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