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いじわる彼氏とハネムーン 467

 飯事(ママゴト)なんかではなく、本気で俺と結婚しようとしている。それが彼の表情からひしひしと伝わってきて、再び緊張してきた。  もちろん、彼が冗談でこういうことをする人でないのは知っているし、言ったことは必ずやり通す人だ。  だからこそ、あまり真面目に考えていなかった俺には、神父の言葉が凄く重たく感じた。 「────誓いますか?」 「…………」  ──酷い裏切り行為をしたにも関わらず、正和さんはそんな俺でも許して受け入れてくれた。もし、俺が逆の立場だったら絶対別れているだろう。そうしなきゃ、ずっと引きずってしまうだろうから。  それなのに、正和さんはこれから先も一緒にいるという選択をしてくれて、こうして結婚式まで挙げてくれた。そんな彼の思いが、今になって神父の言葉と共に深く響いてくる。 「純……?」  黙り込んでしまった俺のことを不安そうに覗き込んできた彼が、少し驚いた顔をする。いつの間にか俺の頬は濡れていて、どうしてか涙が止まらなくて、言葉が詰まる。  (おごそ)かな雰囲気で、スタッフを除けば正和さんと二人きり。そんな場の雰囲気にのまれたのかもしれない。神父がハンカチをそっと差し出してくれて、それで涙を拭った。 「はい……っ、誓います」  泣いているせいで、声が少し上擦った。  まさか自分が泣くとは思っていなかったし、こんなことで泣くなんて馬鹿らしいと思っていたのに。嬉しくて、涙が止まらなかった。 「では、指輪を交換してください」  いつになく優しい顔をした正和さんが、俺の手に結婚指輪をはめてくれる。左手の薬指に輝くそれを見てさらに泣きそうになりながら、彼の手にも指輪をつけた。  女性の歌が上手で、歌声も綺麗で、胸にグッと響いてくる。感極まって、胸がいっぱいで、心が震えて少し苦しい。  挙式前は、かっこよく決めるはずだったのに。撮られた写真は、きっとどれも酷い顔をしているだろう。  誓いのキスは恥ずかしいと思う間もなく、泣いているうちに終わってしまって、結婚証明書に震える手でサインをする。一生残るそれは、今まで一番汚い字だった。

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