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いじわる彼氏とハネムーン 468

 二人だけでの式もスタッフの方が盛り上げてくれたので、寂しい感じは全然なかった。むしろ誰にも気を遣う必要がなかったので、とても良かったと思う。  少し名残惜しく思いながらチャペルを後にして、昨日と同じ場所へ行き、タキシード姿での撮影もした。俺の涙が落ち着くまで待ってもらったから、どの写真もとても綺麗に撮ってもらえて満足だ。 「まさか純が泣くとは思わなかった」 「俺だって思ってなかったし」 「そんなに嬉しかったんだ?」 「……正和さんは?」 「嬉しいに決まってるじゃん。気持ち的には、けじめって意味合いのが強かったけど、純が感動して泣いてるの見たら、式挙げて良かったなって思ったよ」 「ふーん」  だけど、本当に二人だけでしてしまって良かったんだろうか。俺の身内は来るはずないけれど、彼の家族には紹介されているし、なんだか後ろめたい。 「……正和さんの家族とか呼ばなくて良かったのかな」  ホテルに戻る途中の車内で、少し気になっていたことをぽつりと漏らせば、彼は悩む様子もなく口を開く。 「一応彰子さんには相談したけど、二人だけでしてきなさいって。披露宴のとき呼ぶからいいんじゃない?」 「……そっか」  気を遣わせてしまっただろうか。そう思ったけれど、自分の身内が誰も参加しないとなると、これで良かったかもしれない。 「……てか、何でお母さんのこと名前で呼ぶの?」 「んー、社会人になって同じ会社になったからかなぁ。母さんとは呼べないし、社長とか会長とは呼びづらいし、彰子さんも特に何も言わないから」 「そういうもん?」 「純だって俺のこと名前で呼ぶじゃん。一応親代わりなのに」 「っ!? いや、親代わりとか思ったことないし!」 「えーそうなの? 面倒見てるのに?」 「え、なに、お父さんって呼ばれたいの?」 「──それはやめて」  彼の真意がわからなくて引き気味に尋ねれば、彼は渋い顔をして強めの口調でそう言った。  そんな他愛ない会話をしているうちにホテルに着いて、本当に二人っきりになってしまう。恥ずかしさを紛らわすように、ジャケットを脱いで主寝室の扉を開けると、そこは今朝とは様子が違っていた。

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