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いじわる彼氏とハネムーン 477

 * 「海いこう! 海!」  膨らませた浮き輪を持って正和さんのもとへ行けば、日記をつけていた彼は少し嫌そうに顔を顰めた。海は好きだと言っていたのに意外だ。 「……明日パラセーリングしに行くじゃん」 「そうじゃなくて! 泳ぎたい!」 「やったあと泳げるし、今日じゃなくても……」 「えー」 「今日はプールにしよう? 明日に備えて体調整えないとだし」  彼はそう言って、日記を閉じると椅子から立ち上がる。 「もしかして正和さん、今から心の準備……?」 「……そうだけど?」  まるで、悪い? とでも言うように、目をスーッと細めてこちらを()め付けてきた。  きっと明日のパラセーリングは正和さんにとって、相当なプレッシャーなのだろう。 「……そっか」  やっぱり正和さんには悪いことをしたな……なんて、若干の罪悪感を抱きつつ、恐る恐る彼の顔を見上げる。 「そこのプールは正和さんも入る?」 「もちろん。純の水着も持ってくるから待ってて」 「え、俺は自分で持ってきたよ」 「いいからいいから」 「変なのは着ないよっ!」  クローゼットに向かう彼の後ろを追って、強めの口調で意思を主張すれば、彼はくすくす笑った。 「正和さん!」  しかし、彼は俺の言葉にはお構いなしで、バッグから大きめのポーチを取り出し、それを俺に渡してくる。 「開けてみて」  (いぶか)しむように正和さんの顔をじーっと見れば、彼は楽しそうにニコリと笑った。開けるのが少し怖いけど、ドキドキしながらチャックをずらせば、中には紺色の水着が入っていて、サイズの違うものが二枚出てきた。 「わあ……意外」 「だって純、エロい水着は着てくれないんでしょ?」 「とーぜん」 「だから、お揃い。これくらいはいいでしょ」  そう言って、サイズの大きい方を正和さんが持って行く。  水着に着替える正和さんの後ろ姿を見ながら、受け取った水着をぎゅっと握り締める。あんなにたくさん水着を買っていたのに、お揃いとは言えこんな普通の水着を提案してくるなんて、彼らしくない。何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

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