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~甘い誘惑~ 7
「ありがとうございます」
お礼を言って、ゆっくり口に含むと、甘くて温かくて、じんわりと心まで温まる。ココアは俺の好きな飲み物だから、カップの中はあっという間に空になった。
そのまましばらく彼と他愛のない話をしていたら、だんだん眠くなってくる。まだ十時過ぎだけど、今日一日色々な事がありすぎて疲れたのかもしれない。
そんな様子の俺に気づいたのか、彼は「疲れたでしょ、今日はもう休んで」と、俺の手からカップを拾い上げてお盆に乗せる。
「おやすみ」
彼は優しく微笑んだあと、部屋を出て行った。
(なんか……ほんと、すごいねむい……)
目を開けていられない程の睡魔で、倒れ込むようにベッドに入るとすぐに意識を手放した。
* * *
(……これは夢?)
起きると先程とは違う部屋のベッドにいた。おまけに俺の手首は黒い革製の手枷で拘束されてベッドヘッドに繋がれている。足は……と言うと同様に足枷で拘束され、左右それぞれベッドの足に繋がれていた。
繋がれた鎖は長めなので、広いベッドの上でも自由に動けそうだが、いったいどうしてこんなことになったのだろう。
ゆっくり起き上がって、自分の手足を見つめれば、レースの着いたミニスカートを穿いている事に気づいてドキリとする。冷や汗をかきながら室内をキョロキョロと見渡すと、壁一面に取り付けられた巨大な鏡に映った俺と目が合った。
しかもそこに映っているのは、女の子の服を着て猫耳と尻尾をつけている俺。何故か首輪までついている。
「夢じゃ、ないんだ……えっと――」
困惑していると、タイミングを見計らったように扉が開いて彼が入ってきた。
「おはよう、純くん。よく眠ってたね」
そう言いながら、こちらまで歩いてくる。
「え……あの、なんで」
「あ、耳としっぽもちゃんと生えてる」
彼の言葉に疑問を覚える。
耳と尻尾が「付いてる」ではなく「生えてる」と言ったのだ。
「は、生えてるって……?」
「ココアに『睡眠薬入り変体剤』を入れておいたんだ」
「睡眠薬入り変……って、この耳、飾りじゃないの!?」
驚いて眼を瞠 る。
あり得ないものを見る目で彼を凝視して、思わず大きな声を上げた。
「もちろん。自分で動かせるはずだよ」
そう言われて、尻尾に意識を集中させると、鏡に映し出されたそれはしっかり左右に動いていた。
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