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第16話

 目が覚めると俺は彼に抱き締められていた。 (あれ? 昨日どうしたんだっけ?)  寝ぼけながら目元を擦り、大きな欠伸をして彼の腕を離す。体を起こそうとしたら、全身に鈍痛が走って再びベッドに身を(うず)めた。 「うっ……」  腰の辺りは特に痛い。この痛みで昨日の出来事を鮮明に思い出して、顔が真っ赤に染まる。体はどうやら綺麗にしてもらったようで、手足の拘束具も外されていた。だが、首輪は付いたままで、ここだけは鎖でしっかり繋がれてしまっている。  手枷をつけていた所は擦れたのか、手首には丁寧に包帯が巻いてあった。平気で酷いことをするようなやつなのに意外だ。  部屋は昨日の所でも、自分の部屋でもない。  どこだろう、と辺りをキョロキョロ見渡して、自分の状況を確認していたら隣から声をかけられる。 「おはよう、純。……体、大丈夫?」 「全然、大丈夫じゃない!……いっ、たぁ」  声を荒げながら勢い良く起き上がったら腰に激痛が走って、掛け布団の上に(うずくま)る。 「ほら、痛いなら大人しくしてなよ」  彼は起き上がると、俺の頭をポンポンと撫でて伸びをする。程よく筋肉がついた裸の上半身。色気のある体つきに、昨日の情事も重なって、恥ずかしくなってくる。赤くなった顔を隠すように俯けば、彼は俺の顎を掬い取り、唇に触れるだけの優しいキスをしてくる。 「っ……」  不意打ちのキスに顔がじわじわと赤く染まる。顔中熱いから、きっと耳まで赤くなっているに違いない。 「可愛い」  彼は小さく呟いてベッドを降り、シャツを着ると、そのままスタスタと歩いて窓のカーテンを開けた。日の光が入ってきて、俺は思わず目を眇める。 「いい天気だよ」  彼の言うとおり、外は日が照っていて暖かそうだ。それなのに俺の気分は全然晴れない。 (俺、女の子ともしたことないのに)  女の子とはキス止まりだ。それも触れるか触れないかのとても軽いやつ。  先ほどキスされた唇をゴシゴシ拭って、彼の事を睨みつける。 「……ヴァージン返せ」 「そんなの無理だよ。もっと奪ってあげることはできるけど」  そう言ってニヤリと笑った。最低な事を言ってるのにイケメンだと何でこう爽やかに聞こえるのだろう。 「朝食は何食べたい? 俺が作ってあげる」  そう言って楽しそうにこちらに戻ってくる。 「……あんたが作ったご飯なんか、食べたくない」  正直な所、今お腹は減っていない。だが、昨日の彼の行動に腹立っていたので、わざと嫌な言い方をしてしまった。

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