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第22話

 視線に気づいたのか、彼はこちらを向いて優しく微笑むと、テーブルから少し離れた所にいる俺に手招きする。 「おいで」 「…………」 「純?……優しく言ってるうちにおいで」  そう言われたら、彼の言うとおりにするほかない。渋々立ち上がって、彼の側へ行けば「ほら、ここ」と、膝の上をポンポン叩いた。  少し躊躇したものの、彼の機嫌を損ねると面倒なので、膝の上にちょこんと座る。 「いちご食べる?」  そう聞かれて、それには素直に頷いた。だって、本当に食べたかったから。 「じゃあ、口にキスして。そしたら口移しで食べせてあげる」  耳元で囁かれて、体がぞくりと震えた。耳は弱いから、低い声音で囁かれると、どうしようもなく変な気分になってしまう。 「っ……そんなのいらな――」 「やってくれるなら」  俺の言葉を遮るように強めの口調でそう言って、首輪に繋がれた鎖を軽く引くと、言葉を続ける。 「コレも外して、家の中だったら自由にしてあげるよ」  彼は目をスーッと細めて「どうする?」と聞いてくる。鎖を外してもらえるのはとても魅力的だし、拘束がなくなれば逃げるチャンスもできる。 「で、でも……」  家の中で自由に過ごせるのは嬉しいが、キスなんて恥ずかしいし、口移しなんて考えられない。気持ち悪くて、背筋がぞわっとして鳥肌が立った。 「したくないなら、無理にしなくてもいいよ」  優しくそう言われてしまえば、どうしようもない気持ちになる。  鎖がなくなれば逃げ出すこともできるかもしれない。だけど――。  迷っていたら、答えを求めるように彼に名を呼ばれた。 「純?」 「……っ」  思い切って彼の唇に自分のそれをちょんっと重ねて、そっと唇を離した。恥ずかしくて顔が熱いので、目を合わせないように下を向く。  それなのに、彼は顎に指を添え、上を向かせてくる。そのまま後頭部に手を添えられて、再び口が重なり、歯列をなぞるように舌が入ってきた。上顎を擽ったあと、ぴちゃぴちゃと厭らしい音をたてて、俺の舌を絡めとり口腔を掻き回す。 「ん……はぁ」  彼はゆっくり唇を離し、苺を手に取ったかと思うと先端の方を半分くらい(かじ)った。それが今度は俺の口に入ってくるのだと思うと恥ずかしくて、顔を見ることができない。  それを知ってか知らずか、彼は手で俺の両頬を挟むと、無理やり視線を合わせてきて、俺はそれに耐えきれず瞼を閉じた。 「目あけて」  優しい口調だが、強い言い方に逆らえず目をあけると、今までに見た事ないくらい優しい顔をした彼がいた。  彼の顔が段々と近づいてくる。  一秒が一分のように長く感じて、無意識に呼吸が止まる。やがて、唇が重なり、苺とともに舌が侵入してくると、その舌は口腔を隈なく蹂躙し、息継ぎの合間に俺の厭らしい声が部屋に響いた。 「ん、ふ……んっ、んん」  男同士でキスなんて気持ち悪いはずなのに、彼が上手なせいか気持ち良くて、強請るように口を開けてしまう。苺の甘さかキスの甘さか分からなくなるまで唇を重ね、唇を離した時には体がじんっと痺れて、指一本動かすのも億劫だった。  ぼーっと彼の顔を見ていると、彼は息を詰める。  視界がぼやけているから瞳が潤んでいるのかもしれないし、顔が熱いから頬も赤くなっているのだろう。 「そんな顔してると襲っちゃうよ」  彼はそう言って俺を抱き上げると、近くのベッドまで運び、優しく下ろして荒々しく口づける。先程よりも激しいキスに息があがって、頭がクラクラしてきた。 「はぁ、あっ、んん」  早く――、早く終わりにしてほしい。そうでないと、自分がひどく浅ましくて厭らしい人間に思えてくる。部屋に響く甘ったるい嬌声は、まるで自分が女になったような感じがして耐えられなかった。

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