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第26話

 遠くからぼんやりと声が聞こえ、体が揺れる。 「純~、起きて。……じゅーん、朝から襲われたいの?」  その言葉を聞いて、ガバッと勢いよく起き上がる。全身に鈍痛が走ったが、最初の時ほどではない。痛む腰をさすって、彼を見上げたら、彼はにっこり微笑んだ。 「おはよう」  頭が冴えてくると、途端に恥ずかしくなってくる。昨日は無理やりされたのではなく受け入れてしまった。それも自分からも求めてしまった気がする。 (いや、でも自由にさせてくれるって言ったからで……) 「じゅーん、おはよう」 「お、おはようございます」 「朝食にしようか。用意するから待っててね」  そう言って部屋を去ろうとした彼に慌てて声をかければ「何?」と優しく返される 「ご、ごはん……その……」 「うん?」 「キャットフードじゃなくて、普通のがいい」  意を決して言ったのに、彼は怪訝そうに眉を顰めて、まるで俺がおかしな事を言ってるかのように聞き返した。 「普通のって?」 「ふ、普通に人間が食べるご飯!」 「うーん、でも市販の食べ物は、キャットフードしかないけど」  口調はとても優しいのに、意地悪く言われて言葉に詰まる。その要因を作ったのは、紛れもない自分なのだが。 「えと……その、し、市販じゃなくても……」 「でも純、俺の作ったご飯は食べたくないんでしょ?」  その彼の言葉を否定するように首を振って、もごもごと口を開けば、彼は扉に寄りかかってこちらに耳を傾ける。 「そういう訳じゃなくて、ただ……あの時は、お腹、空いてなくて、それで……ちょっと、イラついてて……だから、あんなこと言ったけど、ホントは食べたくない訳じゃなくて」 「……それで?」 「え、と……ごめん、なさい。……作ってください」  泣きそうになりながら言うと、彼の顔に笑みが戻り、こちらまで歩いてくる。俺の頭を優しく撫でて、額にチュッとキスを落とすと、首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。 「何食べたい?」 「……オムライス」  彼の言葉に安堵して、早速リクエストすると、彼はクスリと笑った。 「子供みたい」 「っ……じゃあ他のでいい!」 「いいじゃん、別に。オムライスは俺も好きだよ。ちょっと待っててね」  そう言って俺の頭をポンポンと撫でると、今度こそ部屋を出て行った。 「あ……」  ふと首もとに触れて、昨日とは違う感覚に思わず間の抜けた声を出す。首輪はついたままだが、鎖は外されていて、どこでも自由に行けそうだ。  彼が昨夜の約束を守ってくれた事に少し驚く。  逃げやすくなるから彼は自由にしたくないはずなのに、こうやってちゃんと約束を守ってくれてしまうと、そんな事しづらくなってしまう。  昨日の優しさも重なって罪悪感で胸が痛んだ。

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