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第27話
しばらくすると彼が戻ってきて、リビングで食べるように促された。テーブルの上には、オムライスと簡単なサラダ、オレンジジュース、コーンスープが並んでいて、とても食欲をそそられる。
しかし、彼の家に来てから床で食べてきた俺は、椅子に座っていいものか躊躇っていた。なんとなく座ったらいけないような気がして、ソワソワしていたら、クスクスと笑いをこらえるような声が聞こえてくる。
「早く座りなよ」
彼の許可を得て、ようやく腰を下ろすと、彼は目をスーッと細めて俺を見た。
「純ってさ、調教したら面白そうだよね」
「は?」
「だって三食、床で食べさせたくらいで椅子に座れなくなっちゃうぐらいだから、散歩も裸じゃないとできなくなるかな?……教えれば犯罪もしてくれそう」
口調は優しいのに、とんでもなく恐ろしいことを言っている彼に、思わず声が裏返る。
「犯罪!? まさかさせるつもりで……」
「まさか。大好きな純にそんなことさせる訳ないでしょ。……でも、裸で散歩は一回やってみたいね」
彼のことは普通にいい人なんじゃないかと思い始めていたが、この会話で彼が罪を犯していた事を思い出す。
半ば騙すような形で自宅へ連れ込み、服も着せずに人を監禁しているのだ。しかも性行為まで強要させられた。未成年どころか十八歳にも満たない相手にこんな事をしておいて、罪にならないわけがない。
「てか、好きなんて初めて聞いた」
「そうだっけ?……でも、愛してなきゃわざわざ部屋に閉じ込めたりしないし、素人相手にセックスもしないよ」
一応、自分で何をしているかは自覚しているらしい。
「てか、その前にオレ男なんだけど」
「知ってるよ。純はそーゆうの差別するんだ?」
そう聞いた彼が若干不安そうな眼差しを向けてくるものだから、そんな表情も見せるのかと思わず笑いそうになってしまう。
「しないよ。だけど、俺の好みは可愛い女の子だから」
即答した俺に安堵したのか、またいつもの意地悪げな表情に戻った。
彼に言った通り、そういう人達がいるのも知っているし、本気で恋愛してお互い愛し合っているのなら、性別も年齢も関係ないと思っている。だからと言って俺は女の子一筋だが。
「っていうか裸で散歩って……」
「今さら? てっきり流されたのかと思った。楽しそうだよね。今日する?」
「今日は寒いし!」
「そう……じゃ、今度ね」
意外とあっさり諦めてもらえて助かった。軽く返事をしてコーヒーを啜った彼は、カップを置きながら口を開く。
「ほら、早くしないと冷めちゃうよ? あったかいうちに食べて」
「……いただきます」
小さく挨拶をして、口にいっぱいに詰め込んだオムライスは、とても美味しかった。
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