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第28話

 彼の家に来て初めて普通の食事をした俺は今、彼の仕事部屋に来ている。自由に動けるようにと鎖を外されたのに、結局彼の膝の上に乗せられてしまった。そんな彼はご機嫌のようで、俺を膝に抱きかかえながら書類に目を通している。  それから今日気付いたことは、監禁されているこの二日間、俺同様に彼も外に出ていないことだ。そこで、一つ疑問が浮かぶ。 「……お仕事は行かないの?」  そう言うと、彼は書類から目を離し、不思議そうにこちらを向いた。 「ん? 今してるじゃん」 「何ていうか……えっとー、ほら、外とかの……」 「ああ、俺は書類に目を通して、ハンコ押してればいいんだよ。あとは、週一くらいで顔出せば」  そう言って少し考えるような素振りをすると言葉を続ける。 「それともそれはSMクラブに行こうっていうお誘い?」 「は?……ち、違っ、何言って……」 「でもホテルに派遣するタイプの風俗だから、純の想像とはちょっと違うかもよ? 道具は山のようにあるけど」 「いや、だから違うって」  顔を真っ赤にして否定すれば、彼はクスクスと笑う。 「俺に興味もってくれたの?」 「まさか! 持つわけないだろ、そんなの」  そう言って顔をフイッと背けると少し拗ねたような声が聞こえたが、どうやら口先だけで本当に拗ねているわけではないらしい。 「そんなの、ね。酷いなー、純ちゃんは」  そして、また書類に目を通し始めた。  申請書や企画書、報告書など数十枚の書類を淡々と処理している。風俗店だけでなく、普通の仕事もしているのだろうか。ちらりと覗き見た内容は風俗には関係のないものばかりだ。 (まあ、なんでも良いけど)  ここにいても暇なので、腕から抜け出そうとするが、彼の腕はビクともしない。軽く押さえてるようにしか見えないのに(こと)(ほか)力が強かった。  無理やり離れたところで機嫌を損ねても嫌だし、早々に諦めて、彼の胸に背を預ければ頬にキスされる。 「ん、いい子」  予想外の出来事に顔を赤くしていると、彼は何事もなかったかのように仕事を続けた。 (……そう言えば、スマホどこにあるんだろう)  何もする事がなくて、ふとそんな考えが浮かぶ。だが、彼は凄く真面目な顔で仕事をしているので、聞ける雰囲気ではなかった。  仕方なく、ぼーっと机の下を見ながら彼の仕事が終わるのを待っていると色々な考えが頭をめぐる。父さんと母さんはどうしてるのかなとか、バイト先に休みの連絡入れてないなとか、これからどうなるのかなとか。  しかし、今一番に頭の中を占めているのは彼の事だ。  愛してると言うけどいつから俺の事知ってたのかなとか、何で借金の事知ってたのかなとか、好きだと言うのになんで意地悪するのかなとか。

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