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第32話
納得いかなくて唇を尖らせれば、彼は言葉を付け足す。
「まぁ、純粋な子供ちゃんには分かんないよね」
「っ……子供ちゃんって何だよ!!」
興奮して声を張り上げれば、彼はくすりと笑って俺の肩に顔を埋めた。
「何で笑うんだよ」
「いや、こんな事で怒るなんて、本当子供だなぁって」
「……あんたがオジサンなだけだろ」
彼のことを睨み付けてそう言えば、彼は一瞬顔をヒクリと引き攣らせる。だが、すぐにいつも通りの表情に戻って、楽しそうに言った。
「今日の夕飯はキャットフードね」
「なっ……大人げないぞ!」
「だから?」
そう言って、俺の尻尾を厭らしく撫でてくる。その刺激にぞくぞくっと震えて前屈みになれば、彼はクスクスと笑った。また、あの食事をさせられるのは遠慮したいので慌てて謝る。
「っ……ごめん、怒んないでよ。……俺が悪かったって」
「――――」
「今日は杉田さんが作った美味しいハンバーグが食べたいなぁ、なんて」
そう言って、最後の方は、ハハハと空笑いでごまかすと、彼は苦笑しながら俺の頭を撫でた。
「何でそう可愛いこと言うかなぁ。一緒に作る?」
料理なんてあまりしないので、そう言われて胸が躍る。
「うん」
(っていうか何だこの会話……。これじゃまるで、バカップル……)
カァァっと顔が赤く染まる。
でも、監禁するような奴と楽しんで料理をするなんて変な話だが、悪い気はしない。
「じゃあ作ろっか。おいで」
そう言われ、キッチンへついて行く。
「……」
キッチンに入るなり無言で立ち止まった俺を不思議に思ったのか、彼が首を傾げた。
「どうしたの?」
「……いや、キッチン広いなーと思って」
「そう? 別に普通だと思うけど」
料理をするためだけの部屋なのに、いったい何畳あるのだろう。広々とした部屋を見渡して、店の厨房みたいだなぁ、と感心しながら手を洗う。
「ハンバーグ作ったことないから教えて」
「もちろん。……これつけてね」
そう言って、渡されたのは白のフリルがたくさん付いている女性向けのエプロンだった。
「このエプロンって女ものじゃ……」
「いいじゃん。つけるものがあれば」
そう言われ、つけようかどうしようか悩む。
だって、服を着ていないから、エプロンなんかつけたら裸エプロンという、男にとっては裸よりも恥ずかしいような格好になってしまう。
「ほら、早く。ハンバーグ作るんでしょ?」
躊躇したものの、彼に急かされて「前も隠せるしいいか」という前向きな判断により着ることにした。
そんな俺を見て彼は目をスーッと細める。
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