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第39話

「逃げないの。ちゃんと洗わないとお腹壊すよ」 「っ……」  下からお湯が入ってくる感覚が少し怖くて、正和さんの腕を掴んで唇をぎゅっと噛んだ。シャワーは数秒で離されて、浴槽の縁に乗せていた足を床に下ろされるが、お腹にお湯が入ったままでどうしたら良いのか分からなくて彼の顔を見上げる。 「正和さん……っ」 「不安そうなその顔、凄い可愛い」  そう言ってクスクス笑う。 「中のお湯、勢いよく出さないとお腹に残っちゃうよ」 「へ……」 「力を入れて一気に出してごらん」  力を入れてってどんな風に? と考えると、排泄する時の事が頭に浮かび、顔を真っ赤に染めた。  その様子に気づいたらしい彼が「ほら早く」と急かしてくる。 「見ない、で……」 「そんなお願い聞けるわけないでしょ」  出すのは単なるお湯だけど、出してる姿を見られるのは凄い恥ずかしい。躊躇っていると正和さんが悪戯に太ももを撫でてくる。 「っ……あ」  突然触られてビクッとした俺は中のお湯をダラダラと零す。脚を伝って流れ落ちるそれを見た彼はニヤニヤと笑みを浮かべた。 「やらしい……でもそれだと中に残ってるでしょ」  そう言って再びシャワーを手に取ると、先程と同じように中にお湯を入れる。本当は、あとで残り湯を出せば済むということを、(のち)に知るのだが、この時はまだ分からなかった。俺が知らないのを良い事に、彼は意地悪をして楽しんでいる。 「や、やだ……正和さん、っ」 「ほら、一気に出してごらん。できるまで終わらないよ」  頬を撫でられて、優しくキスされた。意地悪してるのは正和さんなのに、(なだ)めるように優しくされてしまって、どうしようもない気持ちに半泣きになる。  躊躇いながらも彼の腕に掴まり、意を決してお腹に力を入れる。そうするとバシャバシャと盛大な音を立てて勢い良く水が出た。  恥ずかしくて彼に掴まったまま俯き、唇を噛み締める。 「ん、いい子。良くできました」  頭をポンポンと優しく撫でられて褒められると何故だか凄い嬉しかった。見上げると彼はとても優しい顔で微笑んでくれて、その姿にドキッとする。 (……いや、ドキッて何だ。男相手にそれはおかしい) 「顔赤いけどどうした?」 「な、何でもない」  不思議そうに聞いてくる彼に素っ気なく返したら抱きしめられる。 「可愛い」  耳元で囁くように呟いて、再び顔を合わせるとそっと唇を重ねる。一瞬触れ合っただけなのに、唇がジン……と痺れて、とろけるようなとても優しいキスだった。  トクトクと速度を増していく鼓動に、先ほど気付きかけた気持ちが確信に変わる。  それでもまだ正和さんのことを――、意地悪で変態なこの男のことを「好き」と言うのは受け入れられなくて。 「眠い」 「体流したら寝ようね」  とりあえずもう寝たい。何も考えたくない。  こんな気持ちを抱くのも、きっといろんな事をさせられて、疲れているからに違いない。  体を軽く流して浴室を出たあとタオルで体を拭く。 「俺の部屋行ってて」  指示通り部屋に戻り、広いベッドに横になると少ししてズボンを履いた上半身裸の彼が隣に入ってきた。 「おやすみ、純」  そう言って、してきたキスもとても優しくて何故だか凄く泣きたくなった。

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