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第40話
目が覚めたら隣に正和さんの姿はなかった。美味しそうな匂いがするから、先に起きてご飯でも作ってるのだろう。
耳と尻尾もいつの間にか無くなっていて、ほっと胸を撫で下ろす。猫耳が生えていた位置を指でなぞると、完全に元通りで跡形もない。
ベッドの端に移動して、床に足を下ろし、伸びをしながら立ち上がる。腰と内ももが少し痛かったが気になる程ではなかった。
「あ、これ……」
ふと、サイドボードに置かれた白いスマートフォンが視界に映る。水色のネックストラップがついていて、イヤホンジャックに小さい白熊がついている。間違いない、俺のスマホだ。
それを手にとり画面を上に向けるとメールを知らせるランプがチカチカ光っていた。ボタンを押して画面を点灯させる。
「おはよう」
「っ……」
突然横の方から声を掛けられて、肩をビクリと揺らし慌ててスマホを隠した。正和さんは部屋の入口からゆっくりこちらへ歩いてきて、目の前に来るとニコニコしながら楽しそうに聞いてくる。
「どうしたの? 驚いた顔して」
「あ、いや、えっと……」
「ん?」
俺が答えに窮していると、彼は短く聞き返し、頬に軽くキスをする。
「えっと、その……こ、これ! そこにあったから確認しようと思って、それで……」
自分のスマホなのに何でこんな言い訳してるんだろう。
隠し持っていたスマホを目の前に出すと、彼は楽しそうにニヤニヤする。
「悪いことしたと思って隠したの?」
「違っ……いや、違わないけどっ、えっと、その……ご、ごめんなさい」
焦って謝罪する俺を見て彼はクスクス笑った。
「素直に言えてお利口さん」
彼は俺の頭を撫でた後、前髪を少しかき上げると、そのまま額にキスを落とす。
「あのまま嘘付いたらお仕置きしようと思ったのに。残念」
そう言う正和さんは楽しそうで、全然残念ではなさそうだ。俺は手に持ったままのスマホを見て、控えめに訊ねる。
「これは……?」
「返してあげる」
「……何で?」
予想外の返答にキョトンとして聞き返せば正和さんは苦笑した。
「何でって……いい子だから?」
「……」
「それより、朝ご飯食べよっか。サンドイッチとスープ作ったよ」
そう言って彼は少し屈むと唇にキスをして、手を掴んだ。いや、握るという表現の方が正しいかもしれない。
そのまま優しく手を引いて、部屋を出る。
「……正和さん、ありがとう」
聞こえるか聞こえないか微妙な声量で呟くと、正和さんがぎゅっと手を握って優しく微笑んだ。
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