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第41話
リビングで朝食を食べながら、彼に話しかける。
「秋休みの課題やってもいい?」
「真面目だねー。家の中だったら純の好きにしていいよ」
課題をやった所で休み明けに学校へ行かせてくれるのかは疑問だが、ぼーっとしているよりは気分転換になっていいだろう。
別に勉強は好きでもないし、頭も普通だけど。
「あ、自由にして良いけど玄関の方は行ったらダメだよ。疑われるような行動は謹んでね」
「……わかった」
昨日、正和さんのことが好きかもしれないと思ったが、それはやっぱり勘違いだ。男の人を好きになるのはまだわかるとしても、こんなこと言う人を好きになるはずがない。
(……いや、男の人を好きになるのもわからん)
「ごちそうさまでした」
完食して食器を片そうと立ち上がると、先に食べ終わっていた正和さんが自分の皿とまとめて持って行ってくれた。
俺はテーブルを拭いてから洗面所へ行く。歯磨きしていたら食器を洗い終えたのか正和さんも隣に並んだ。
口をゆすいで先に洗面所を出ると、自分の部屋へ向かう。初めてこの家に来た日以来その部屋には入ってないなあ、と考えていると突然後ろから抱きしめられた。
「……何?」
「何でもないよ。可愛くてつい」
どう返したら良いか分からず固まっていると体がそっと離れてく。
「俺はお昼まで仕事してるから何かあったら声かけて」
そう言って頭をポンポン撫でてきたから、俺は後ろを振り向いて背伸びをし、正和さんの頬に軽くキスをしてみた。
別に正和さんを好きになったとか、キスがしたくなったとか、そう言う訳ではないけれど、なんとなく。いつも翻弄されてばかりでは腑に落ちないし、俺のことが好きらしいから気まぐれでしてみたのだ。
ちょっと気恥ずかしいけれど、意識してない時だとキスなんて大したことないな、なんて思った。
「お仕事頑張ってね」
「っ……」
気遣う言葉をかけた後、自分の部屋の扉をあけて後ろを振り返ると、正和さんが珍しく頬を赤くしていた。俺はそのまま部屋に入って扉を閉める。
「反則……」
扉が閉まる直前そんな声が聞こえた。
何やら動揺しているようで、楽しくていたずらっ子のような笑みが零れる。
「……さーて、何からやろうかなー」
秋休みは二週間しかないのに課題の量が多い。
得意な科目ばかりだったらあっという間に終わるのにな、なんて思いながら苦手な数学から片付けようと問題集を手に取った。
それを、一人で使うには広い六人掛けのテーブルに置いて、椅子に座り問題を解き始める。
初めから難しい問題で一気にやる気がなくなるが、お昼までに半分は終わらせようと意気込んで、シャーペンを二回ノックした。
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