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第48話

「おはよう」 「……おはよう」  布団の中で、後ろから正和さんに抱き込まれていて、身動(みじろ)ぎしたら声をかけられた。俺も挨拶を返して、寝返りを打つと彼は一瞬驚いた顔をする。 「クマができてる」 「くま?」 「目の下。……まあ毎日あれだけ出してれば仕方ないね」  クスクスと笑ってキスをすると正和さんは体を起こす。 「朝ご飯作ってくるね。純は休んでて」 「……うん」  彼が部屋から出て行って、俺もゆっくりと体を起こし、伸びをしながら、ふと部屋を見渡した。仕事用のデスクに、ソファとテーブル、本棚も置いてある。部屋の隅には、座って二人入れそうな鉄製の檻もあったが、怖いので見なかったことにする。  どんな本を読むのかなー、と本棚まで行くと医学書がズラッと並んでいた。他にはマナーの本や政治の本、ビジネス、経済の本、雑誌もいくつかある。猫の本も多いからきっと猫が好きなのだろう。  初日に変な薬で猫耳にさせられたな、なんて思いながら順番に背表紙を見ていると、一番下の右側だけ本がごちゃっとしていた。  本が縦ではなく寝かせて積んであり、その山が二つ。気になって、左の方の山を本棚から引き抜くと、どちらの山もバサーっと崩れて散らばった。 「あ……っ」  瞬時に顔が真っ赤に染まる。  散らばった本のタイトルは様々で……。 『ドMでえっちな男の娘』『初めてのSM』『ノンケ男子校生が整体で……』『ネコが悦ぶ!! 飼い方ガイド』 「っ……」  いや、こんなのは生ぬるい。奥にしまってあるものはタイトルから過激過ぎて、中を見るのが恐ろしいくらいだ。 (しかもなんか付箋貼ってあるし……) 「興味あるの?」 「うわっ」 突然後ろから声をかけられて飛び退()く。 「やだなあ、朝からエロ本なんて」 「ち、違っ……てか、なんでこんなのたくさん……」 「この子たちには興味ないからね。純にこういうことしたいなぁって思って見てるだけで」  いらぬ報告までしてくる正和さんに耳まで真っ赤に染まる。 「っ……別に俺も正和さんに興味ないし好きに見れば」 (って言うか何。彼女にエロ本見つかって言い訳してるみたいじゃん) 「怒ってるの?」  いつも余裕綽々な正和さんが、少し焦った顔をしているので面白い。 「知らない」 「……ごめんね、機嫌直して?」  不安そうな顔してそんなこと言うから少し可愛いな、なんて思ってしまった。やはりイケメンはどんな表情でも様になるから少し悔しい。 「意地悪で変態で、こんな本読んでるとか」 「ごめんって。優しくするからそんな言い方しないで。ね?」  捨てられた子犬みたいな目をしながら、俺を宥めようと必死だ。

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