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第49話
その様子が可笑しくて、次はなんて返そうかなーと思ったら、突然俺の体を抱きしめて耳元で囁いてくる。
「愛してるよ」
「っ……俺は、好きじゃない」
「……どうしたら好きになってくれるの?」
体を少し引いて、耳元ではなく目を合わせて真剣な顔で聞いてくる。
「そんなの……意地悪しなくて優しくて性欲が抑えられる人じゃないと無理」
「…………」
彼は複雑な表情を浮かべるが、一人で納得したように頷いて俺の頭を撫でた。
「ご飯食べよう。みそ汁冷めちゃうよ」
正和さんは散らかった本を適当にまとめると、俺の手を引いてリビングへ向かう。朝食は焼き鮭にみそ汁、和え物、漬け物、白米と和食だった。
彼が作るご飯はどれも本当に美味しい。
今日なんてこの豆腐の味噌汁とか絶品。豆腐の味噌汁を美味しいと感じたのは生まれて初めてだ。
「ごちそうさまでした」
完食してお腹いっぱいになったので、少し休んでから片付けよう。
「今日も課題やるの?」
「うん」
「教えてあげようか?」
「……大丈夫、苦手なの終わったから」
「そっか。じゃあ俺も仕事してるね」
彼は立ち上がると俺の分の皿もまとめて片付けてくれた。俺も歯磨きをして自分の部屋に行き、問題集を開く。
だが、ご飯を食べたばかりで少し眠いし、疲れているのか体全体もだるかった。
集中力が続かなくて問題が頭に入ってこないから中々進まない。
結局数ページしか終わらないまま時間が過ぎて、お昼になってしまった。問題集を閉じて、欠伸をしながら腕を伸ばすと部屋の扉が開く。
「純、外に行こう」
「え……何で」
また裸で散歩でもさせられるのかと思い、怖い想いをしていると、そんな俺に気付いたのか「今日は服を着せて連れて行ってあげるよ」と笑われてしまった。
「これ着て。外に食べに行こう」
彼は服を渡してきて優しく微笑む。少しピンクがかった白のニットに、ダークグレーの落ち着いた色のズボン、焦げ茶色のベルト、下着と靴下もあった。
「着替えたら来てね」
そう言って正和さんは部屋を出ていく。
自分では絶対選ばないような色のニットを見つめて思わず顔を顰めてしまう。女の子が着た方が似合うんじゃないだろうか。
(……まあ、何もないよりマシだ)
パンツを履いて肌着を着る。ズボンに足を通してベルトを締め、最後にニットを着てスマホを首から提げる。
着てみると思ったよりズボンがしっかりしているので、女の子っぽくなることもなかった。
リビングへ行くと、正和さんが手を差し出してきて首を傾げる。
「……なに?」
「携帯は俺が預かるよ」
一瞬躊躇ったが、逆らっても仕方がないので、彼に渡す。
「良い子。帰ったら渡すからね」
彼にポンポンと頭を撫でられて嬉しくなった。何故だか分からないし、自分でも気持ち悪いと思うけど、彼に褒められたり頭を撫でてもらえるのは嬉しくて好きだ。
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