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第51話

「他の人とも来た事あるけど、社員とか、仕事で関係のある人たちだよ」 「…………」 「失礼致します」  スッと襖が開いて、女将さんが入ってくると、テーブルに料理の乗った膳をおく。美味しそうなお刺身、天ぷら、鰻、お吸物、白米に漬け物。食べきれるか不安になるくらいのボリュームだが、匂いにつられて空腹感が増した。 「この子が自分以外と来たのって嫉妬してるんだけど、プライベートで来るの初めてだよねー?」 「どうでしょうねえ」  そう言って女将さんはクスクス笑う。 「サエさん酷い」 「ふふ、冗談ですよ。いつも仕事でいらしてるので、今日は楽しそうで良いですね」 (名前で呼ぶんだ……)  仲良いんだな、なんて思っていたら、女将さんが俺を見て言った。 「ほら、私と話してるとまたヤキモチ妬かれちゃいますよ」 (別に妬いてなんかないし) 「可愛い」  正和さんはそう言って、女将さんが見てるのに唇へキスしてくる。軽く触れるだけのキスだったが、ドキッとして息が上がった。 「おやおや」  女将さんは小さく呟いて、そっと部屋を出て行った。 「純のこと愛してるって言ってるでしょ。心配しないで俺のことだけ見てて」  心臓が早鐘を打ち、ドキドキして全身が熱い。もしかしたら顔も赤いかもしれない。  今日の俺、なんか変だ。 「心配なんてしてないし」  正和さんはクスッと笑うと頭を撫でてきた。 「冷める前に食べよう」 「……いただきます」  鰻を箸で切って口に運ぶ。ふわふわで甘味があってとっても美味しい。お刺身は見た目からして美味しそうな色をしているし、天ぷらはサクサクふわふわだし、なんか幸せだ。  ご飯を食べ終えて部屋で少しゆっくりした後は、お会計を済ませて女将さんに見送られながら店を出た。  車を二十分ほど走らせて百貨店に着くと、駐車場に車を停めた。車を降りると先ほどのように、手を繋がれて歩いてく。 「ねぇ、手離して」 「だめ」  周囲の視線が気になって恥ずかしいから離して欲しかったけど、彼の目が厳しくなったので、これ以上言うと怒られそうだから諦める。 (別に逃げたりしないのに……)  拒んで離そうとしていた手を軽く握り返したら、彼は優しい顔に戻って微笑んだ。 「たまにはこう言うデートも良いね」 (デート?!) 「っ……」  じわじわと顔が熱くなる。今日だけで何回赤面してるんだろう。 「何か見たいものある?」 「……ない」 「うーん、じゃあ純の服でも買いに行こうか」 「えっ、いいよ」 「何で? 裸の方が好き?」  自分の服は何着かあったはずだし、買ってもらうのが申し訳ないから言ったのに、真面目な顔で困った発言をする。 「そんなわけないじゃん」 「じゃあ行こう」  そう言って洋服売り場に向かった。

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