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第52話
「じゃあこれなんてどう?」
「いや、この色もちょっと」
「可愛いと思うけどなあ」
正和さんが選んでくる服は、ピンクだったり、パステルカラーの水色や黄色だったり、なんか可愛い感じのものばかりだ。
極めつけはショートパンツ。メンズにもこんなのがあるなんて知らなかった。ハーフパンツならまだしも、太ももまでガッツリ露出とか絶対ない。ありえない。お辞儀したらお尻とか見えそうだし。
「これは? このジャケットと合わせて――」
(うーん、これなら悪くないかな)
インナーが可愛らしい感じであれだけど、ジャケットが格好いいからギリギリ許容範囲だ。俺が拒否しないのを見ると、彼はにっこり笑って店員に話しかける。
「じゃあこれもお願いします」
「はい、かしこまりました」
正和さんは店員にカードを渡して世間話をしている。少しすると大きな紙袋を持った店員さんが、店舗の入口まで送り出してくれた。
「お品物でございます」
正和さんが紙袋を受け取ると、店員は深々と頭を下げた。
「ありがとうございました」
「……こんなにたくさん何買ったの?」
「何って、純の服だよ」
もしかして先ほど見せてきた物全てを買ったのだろうか。見た目が可愛い過ぎるから嫌だというのもあるが、一着数万円もする服をそんなに買ったのかと思うと少し目眩がした。
「そんなにいいのに……」
「良いの。また二人で出かける時に着せたいから」
「……ありがとう」
頭をポンポンと撫でられて、手を繋いで歩く。車に戻って荷物を入れたあと、自分たちも乗り込んだ。
「他に行きたい所ある? なければこのまま帰るけど」
「……うん、大丈夫」
シートベルトを締めると車がゆっくり動き出し帰路に就く。
家についたのは三時過ぎで、靴を脱いでリビングに行くと後ろから抱きしめられた。
「正和さん……?」
振り向くと唇に軽くキスされて狼狽える。
「家着いたから服脱いで」
「……ここで?」
とても優しい声音だが言ってることは酷い。
「どこで脱いでも一緒じゃない」
「……恥ずかしい、から」
「可愛いね。部屋でも良いよ、脱いだら持ってきて」
無理やりにでも彼の前で脱がせられると思ったから、そう言われたのは少し意外だった。
この家に来てからは、ずっと裸だったから、裸を見られる事は少し慣れてきた。しかし、服を脱ぐと言う行為はやっぱり恥ずかしい。
自分の部屋で服を脱いで、丁寧に畳んでからリビングに戻る。正和さんにそれを手渡せば、頭をくしゃっと撫でられた。
「良い子。そこ座って」
(なんだ?)
ソファに座るよう促され、言う通りにする。
「ちょっと待っててね」
正和さんはそう言い残すと、キッチンへ行ってしまった。
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