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第58話
「えっと、だから……その……」
頭の中がぐるぐるして、どう話したら良いか分からずシドロモドロになっていると、正和さんが大きな溜め息をついた。
「っ……正和さんといると……胸が、ドキドキして……す、すきかもしれないって思って……」
「へえ。可愛いこと言ってくれるじゃない」
彼の表情が幾分か柔らかくなり、俺を見る目が少しだけ優しくなる。
「でも、本当の好きなのか、わかんなくて……それで……一度ここを離れて、考えたく、て」
「それが理由?」
冷たい目ではなく普通の怒ってる顔に戻って安心する。低い声音と厳しい顔で怖いけれど、相手の事を想っている時の優しい眼差しだ。
「そう、です……ごめ、なさい……っ」
いつもの彼に戻って安心したせいか再び涙が零れだして、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。
「ひ、ッく……っ、お仕置き、してください……も、二度としな、から……許してください」
「……分かったよ。分かったから落ち着いて。ほら、泣きやんで。皆に声聞こえちゃうよ?」
背中をさすって優しい口調で宥めてくるから、唇を噛んで声を抑える。泣き止もうと、ひっく、ひっく、としゃくり上げながら、目元を擦れば、次第に気持ちも落ち着いてきた。
「……でもね、純が俺のこと好きでも嫌いでも離す気はないから、考えなくていいよ」
「っ……」
「もちろん好きでいてくれたら凄く嬉しいけどね。純は俺のお嫁さんなんだから離れるのは許さない」
俺の体を抱き締めて耳元でそっと囁く。
「余計なこと考ないで」
正和さんは抱き締めて後ろに回した手で、器用に腕の縄を解いた。
「帰ったらお仕置き。ちゃんと罰を受けられたら許してあげる」
そう言って楽しそうにニヤリと笑う。これはこれで背筋がゾクッとして怖いけれど、冷たい態度をとられるよりは全然良い。
「このドア、内側から開ける時も鍵が必要なんだよ。ほら」
家に入って、正和さんが扉を閉めると、扉の取っ手部分を開ける。そこには暗証番号を入れるのか、数字を入力する機械がついていた。
「純が飛び出して行かないようにわざわざ付けてもらったんだ」
(……ああ、何でこんな人好きになっちゃったんだろう、ほんと)
「それから何回もガチャガチャやると俺の携帯に連絡がくるんだよ。不審者用らしいけど、こんな所で役に立つなんてね」
彼はそう言ってクスクス笑うと、俺の足の裏についた土をタオルで拭いてくれる。
「ご飯はちゃんと食べたの?」
「サンドイッチ食べた」
「お昼は?」
「まだ……」
「食べないで逃げようとしたの?」
正和さんは可笑しそうに笑って、俺の頭を撫でる。
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