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第60話
「ジュースだけじゃ足りないでしょ?」
そう言って、未開封の五〇〇ミリリットルのペットボトルを渡してくる。
「そんなこと……」
首を僅かに振って否定すると、正和さんは再び低めの声で名を呼んで、嗜 めるように先ほどの言葉を繰り返す。
「純。足りないよね」
「……」
「たくさん飲んでね」
楽しそうに言って、ペットボトルの蓋を開けると手渡された。
水のたくさん入ったボトルの口を見つめる。彼をチラッと見れば、目をスッと細めて「早く」と言っているようだった。
仕方なく水をごくごく飲む。三分の一くらい飲んで口からボトルを離せば、彼は笑顔で酷いことを言った。
「全部飲んで」
「……できない」
「ふーん?」
彼は意味深長に呟くと、俺の下腹部をぎゅっと一瞬だけ押す。
「あっ」
ただでさえ強い尿意を感じるのに、そんな事をされたら危うく漏らす所だった。
「まだ我慢できるみたいだし飲めるでしょ?」
(鬼だ……)
確かに飲んですぐに降りてくる訳ではないから飲めない事もないが、これ以上飲んだら本当に漏れそうだ。
目を瞑ってごくごくと一気に飲み干すと、彼は微笑んで空になったボトルをゴミ箱へ捨てる。
飲み過ぎて少し気持ち悪いし、早くトイレに行きたい。
「良い子。今から一時間我慢してもらうよ」
俺の隣に座った彼に頭を撫でられて、思わず肩を竦めれば、思ってもみなかった言葉を告げられて、間抜けな声がもれた。
「へ? そんな……っ」
そんなの無理に決まっている。
「本当に反省してるならそれくらい楽にできるでしょ?」
そんな風に言われてしまったら俺は反論できないわけで。でも本当に漏れそうで既に限界が近い。三十分我慢するのがやっとだろう。
「っ……」
「俺のベッド汚さないでよ? 漏らしたらお仕置きのフルコースだから」
(いやいや待って、お仕置きのフルコースって何)
彼の恐ろしい発言に、どうにかしてこの場を切り抜けようと考えを巡らせる。そしたら、正和さんがニコリと笑って俺の腰に腕を回した。
「ふふ、でも俺もそんなに意地悪じゃないからね、もう一つ選択肢をあげる」
ちょっと待て。いや、本当に嫌な予感しかしない。
彼は立ち上がると、先ほどテーブルに置いた物を持って戻ってくる。
「これを使うなら一時間我慢しなくて良いよ」
「それは……何?」
「カテーテル」
カテーテルと呼ばれた細い管をいったい何に使うのか。この状況でそれを持ってくるということは――。
「使うってまさか」
「純のココにいれて、膀胱から直接出すの」
俺の中心部を握って、その先端を撫でる。
「い、入れるって、そんなとこ入るわけ……」
そんなの痛い。絶対痛い。怖すぎる。
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