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第62話

 無心で、事務的に、何も考えないで言えばどうって事ないだろう。自分にそう言い聞かせて意を決する。呟くような小さな声になってしまうとやり直しさせられるから、頑張って声を出して言った。 「カテーテルいれて……おしっこして、イっちゃうとこ、見てください……先生」 「っ……」  この前も思ったが正和さんは『先生』と呼ばれるのに弱い。だからそう言えば、これ以上意地悪なことを言ってこないと思って、そう呼んでみた。 (一応お医者さんだったらしいし)  彼は目元を少し赤くして言葉を詰まらせている。いつもこんな風に照れた感じだったら可愛げがあって良いのにな、なんて思っていたら、彼はベッドにバスタオルを敷いた。 「……横になって」  タオルにお尻を乗せて仰向けになるよう促されその通りにすれば、正和さんはカテーテル以外の道具も持ってくる。  怖くて不安になりながら彼の方を見ていると、優しい笑みを浮かべた。 「まずは消毒」  そう言って自分の手とカテーテルを消毒し、俺の中心部を湿ったコットンのようなもので拭いていく。  そして、軟膏とかが入っているようなアルミチューブを手に取ると、透明のジェル状の液体を出してカテーテルに塗った。 (怖い。怖い。怖い)  だってあんな管が入ってきたら絶対痛い。 「いい子にしててね」 「ま、正和さん……」 「ん、なに?」  彼は柔らかい口調で聞き返すと、そっと頬を撫でる。そんなに優しく言われてしまったら、やめて欲しいだなんて言い出せない。 「……なんでも、ない」 「いい子。危ないから大人しくしててね」  正和さんは、瞳から零れた涙を唇で掬い取り、その口で優しくキスをする。 「痛みを和らげるお薬塗ったから、そんなに怖がらないで」  そう言って俺の足元へ行くと、管の先端を鈴口にそっとあてる。 「深呼吸して」  緊張して喉をゴクリと鳴らし、言われた通り深呼吸をする。 「痛っ……ぅっ……!」  少しずつ、押し入ってくるカテーテルにチリチリとした痛みを覚える。入ってきた場所から、じりじりと熱を帯びた感じがして、怖かった。  けれど、ゆっくりと丁寧に入れていく正和さんの顔は真剣で、なんだか本当のお医者さんみたいでドキッとする。 「あ、ふ……っ」  最初は少し痛かったが、はいってしまえば違和感があるのみでそんなに痛くはない。だけど、既に二〇センチくらい入っている。いったいどこまで入れるつもりなのだろう。  恐怖でバクバクする心臓を押さえると、彼はカテーテルを回して、ゆっくり抜き差しした。 「あぁん!……あっぁ……ああう」  まるで射精しているかのような快感に襲われて、体を大きく震わせる。 「ここ気持ち良いでしょ」 「や、それやだ……っ、正和さ、あっあぁ……おかしく、あぁう……っ」 「おかしくなっていいよ。純は何も考えないで」 「あっ……あっ……」  管を奥深くまで入れられると、今までの非じゃないくらいの尿意に襲われて全身を震わせる。その直後、琥珀色の液体が管を通って洗面器に流れ出た。 「あ、や、やだ……でちゃう……っ」  自身をびくびくと震わせながら、鈴口に嵌っている管の先から琥珀色の液体が溢れ続けている。  その様子を見たくなくて、俺は顔をそらした。

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