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第63話

「あーあ、お漏らししちゃった」  心底残念と言うような口調で言っているが、正和さんのその顔はとても楽しげで、妖しい笑みを浮かべている。 「何か言うことあるんじゃないの? 勝手に漏ら したりして」 「っ……!」  勝手に、と言っても正和さんがそうさせたのだ。なんてことを言うのだろう。 「何も言うこと無いの? まだお仕置きが足りないのかな」  さらりと、とんでもないことを言う彼に、じわりと涙を浮かべ首を横に振る。 「ごめん、なさい……」  力なく言葉を発した俺の口は震えて、恥ずかしさと快感から逃れるように体を捩った。 「お仕置きで感じちゃったの?」  揶揄(からか)うような正和さんの口調に、これ以上にないくらい顔を赤く染めて、体が小刻みに震える。恥ずかしいやら、悔しいやら、複雑な心境だ。  正和さんは、鈴口に入っているカテーテルを引っ張り、ゆっくりと抜いていく。 「ふ、あぁっ……んっ」  それを抜き終えると、優しく啄むようなキスをいくつも落として、目元の涙をそっと親指で拭った。 「ん……ごめ、なさい。逃げたりして、ごめんなさい」  正和さんの優しい触れ方に、自分でも思いがけず、すんなり言葉が出ていた。 「もうしないって約束できる?」  彼は少し寂しげな表情を浮かべながらも、強くはっきりと言った。 「約束する……言い付け守るから」  自分の口から出かけた言葉に驚き、途中で止める。 「……守るから、何?」  不自然な言葉の終わり方に、杉田は先を促すように問う。 「言い付け、守るからねって……話」 「そっか。良い子」  そう言って、俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。それには素直に気持ちいいと思った。性的な意味ではなく、安心できるような心地良さ。  正和さんは俺の真上に(またが)ると、シャツを脱いで見下ろした。筋肉が程よくついた上半身は大人の色気を放っている。 「そろそろ、俺も限界かな」  そう言って、前髪をかき上げた彼に、心臓がドキリと跳ね上がる。  不覚にも正和さんがカッコイイと思ってしまった。しばらく見惚れていると、彼の眉間に皺が寄る。 「何?」 「な、な、何でもない!」  そう言って顔を背ければ、彼はニヤリと笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込む。 「もしかして、俺の顔に見入ってた?」 「そんなわけ……っ」  そう言った俺の顔は真っ赤で、図星なのが彼にバレてしまった。また意地悪を言われると思ったが、彼は俺の唇に優しく優しくキスをする。  丁寧で蕩けるような甘いキス。そんな中、ついさっき自分が言いかけたことを思い出す。 『ずっと一緒にいて』  最近本当におかしい。ずっとここにイるから、この変態に感化されてしまったのだろうか。  そんなことを考えていると、正和さんが胸の先端を(つま)んだ。 「あぁっん!」 「考え事する余裕があるなら、手加減はいらないね」  そう言って、正和さんは狂いそうな程の快楽を長らく俺に与え続けるのだった。

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