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第64話
俺が逃げ出そうとした日から一週間が経った。間もなく秋休みも終わる。
この一週間、正和さんはとても優しかった。意地悪なことは言わないし、変なお仕置きもして来ない。たまに外に連れて行ってくれたりもする。
そして、服も着せてくれるようになった。首輪はお風呂の時以外はつけられたままだが、あまり気にならなくなってきている。慣れって怖い。
ただ最近気になっているのは、あの日を境に全く手を出して来なくなった事だ。一日何度でも手を出してきた変態なのに。
少し寂しいだとか、触って欲しいだとかは、別に思っていないし、正和さんに体を触られると期待して過剰に反応してしまうとか、そんなのも知らない。
今、ベッドの上で布団にくるまって、彼の匂いにドキドキしてるとかも絶対ない。
「純」
さっきまで机に向かって仕事をしていた正和さんが、隣に来て優しく名を呼んだ。
「明後日から学校だね」
「……行かせてくれるの?」
「俺の送り迎え付きでね」
そう言ってにっこり笑う。
「純は俺の事どう思ってる?」
「どうって……」
「この二週間の間、思ったことを言ってみて」
「……変態」
彼は少しムッとした顔をして目を細めるが、変わらず優しい声音、優しい口調で聞いてくる。
「それだけ?」
「……意地悪で、エロくて、お仕置きが好きで、監禁して泣かせるのも好きで……男子高校生が好きなホモ」
「純……」
苦笑しながら少し悲しそうな顔をする正和さんが面白くて、吹き出しそうになるのを我慢しながら、言葉を続ける。
「でも、とても優しくて、かっこ良くて、頭も良くて、料理が美味しくて……俺をドキドキさせるのが上手な人」
「俺のこと好き?」
自信たっぷりに聞いてくる彼に、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「……知らない」
「教えて」
「知らないってば」
「俺は愛してるよ」
冷たく答えれば、彼は耳元で囁いて俺の腰に手を回す。
「っ……」
「純」
耳朶を甘噛みされて、囁くように名前を呼ばれ、そこをねっとりと舐められて、久々の刺激に体がゾクゾクして息が上がる。
「はぁ……っ」
ゆっくりと首筋にも舌を這わせ、唇に啄むようなキスをする。
「好きだよ。俺と結婚して」
「けっこん?!」
俺の目を見て真剣な顔でそんな事を言うから声が少し裏返る。
「そもそも……付き合ってもないし、結婚とか男同士で……」
「じゃあ俺と付き合って」
「っ……てか、俺は正和さんのお嫁さんとか言ってたじゃん」
無理やり監禁して、勝手に嫁にしてるくせに意味わかんない。
今更付き合うとか何。それ以上の事やってるくせに。
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